恐怖と魅惑のヒッチコック特集! 英国時代の最高作『三十九夜』
藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師
新型コロナの影響で休業中だった各地の映画館が再開している。さて何を観ようか、と迷うことはない。まずは“映画の聖地”、東京・シネマヴェーラ渋谷のヒッチコック特集に駆けつけよう!――まったくもって、この時期に“サスペンスの神様”、アルフレッド・ヒッチコック監督(英、1899~1980)の35作品が上映されるとあっては、映画ファンは絶対に見のがせない(6月6日~、ヒッチコック監督特集Ⅱ)。
ヒッチコックの全作品57本のうち、その過半数がスクリーンで観られるわけだが、しかも演目が、これまたシネマヴェーラならではの、目を見張るようなユニークさである。切り裂きジャックを題材にした『下宿人』(1927)などのサイレント8本を含む、ヒッチコック英国時代(1925~39)の白黒作品が20本もセレクトされているばかりか、アメリカ時代(1940~76)の作品も、最もポピュラーな『サイコ』『裏窓』『めまい』といった後期の名作群ではなく、第1作『レベッカ』(1940)から『私は告白する』(1953)までの、いわば初期から中期の、比較的知られていない、しかし極上の15本――うち13本が白黒――が上映されるのだ。なんという贅沢なラインナップ!

来日したアルフレッド・ヒッチコック監督(左)=1955年12月、東京の帝国ホテルで
――というわけで、上映作品すべてが必見だが、ここでは2回にわたって、とくに注目すべき重要作を取り上げ、そのほかの作品にもできるかぎり言及したい(ほとんどのヒッチコック作品品はDVD化されている)。