芸とは何かをして見せることだけでなく、「キャラを見せる芸」というのもあるのです
2020年06月07日
今回は、この3月に亡くなられた志村けんさんが確立したと言われている「バカ殿理論」についてお話しします。
バカ殿理論は、スタニスラフスキーの演技理論、エイゼンシュタインのモンタージュ理論と並ぶ表現の基本理論として、広く創作、制作の現場では活用されているものなのですが、まずは、バカ殿理論を意識して作ったものを見てもらいましょう。「ツァラトゥストラの編集会議」のバックナンバーから三つ紹介します。
一つは、大学病院を舞台にした山﨑豊子の代表作「白い巨塔」です。「白い巨塔」は何度もテレビドラマになっているので、みなさん知っていると思いますが、野心家の財前教授が白い巨塔の頂点を目指して上り詰めていく話です。ここでは、「腕はいいけど、心はないロボット医師」の話にしています。
二つ目は、ミステリーの女王、アガサ・クリスティの「スタイルズ荘の怪事件」です。この作品はエルキュール・ポアロシリーズの第一作目としても知られていますので、ここでは、ポアロによく似たロボット探偵を出しています。
さて、三つの4コママンガを紹介しました。前もって言っておきますと、三つとも「AI新聞」の記事によって成り立っていますが、「AI新聞」はただの小道具です。バカ殿理論と関係があるのは、「AI新聞」で紹介されているキャラクターです。
この三つの作品では、ロボット医師のザイゼン教授、探偵ロボ、座敷童子ロボの三つのキャラクターがそれぞれ主役です。が、三つとも特に何をやっているわけではありません。台詞もありません。他のレギュラーのキャラクターたちはこの4コマの舞台の上で何かをやっています。新聞を読むとか、会話をするとか、仕事をするとか、何らかの芝居をしています。が、ザイゼン教授と探偵ロボは何もやっていません。座敷童子ロボは遊んでいますが、座敷童子ロボにとってはこれがデフォルトの状態ですので、何かをやっているうちには入らない。いずれにしても、ドラマに参加しているわけではありません。
なぜ、これらのキャラクターは何もやっていないのか。答えはこうです。何もしないほうがいいからです。そして、これが志村けんが確立した
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください