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【7】バカ殿理論とは何か?

芸とは何かをして見せることだけでなく、「キャラを見せる芸」というのもあるのです

中川文人 作家

台詞のない主役

 今回は、この3月に亡くなられた志村けんさんが確立したと言われている「バカ殿理論」についてお話しします。

 バカ殿理論は、スタニスラフスキーの演技理論、エイゼンシュタインのモンタージュ理論と並ぶ表現の基本理論として、広く創作、制作の現場では活用されているものなのですが、まずは、バカ殿理論を意識して作ったものを見てもらいましょう。「ツァラトゥストラの編集会議」のバックナンバーから三つ紹介します。

 一つは、大学病院を舞台にした山﨑豊子の代表作「白い巨塔」です。「白い巨塔」は何度もテレビドラマになっているので、みなさん知っていると思いますが、野心家の財前教授が白い巨塔の頂点を目指して上り詰めていく話です。ここでは、「腕はいいけど、心はないロボット医師」の話にしています。

「白い巨塔」

拡大「白い巨塔」(山崎豊子) 作画:斉田直世

 二つ目は、ミステリーの女王、アガサ・クリスティの「スタイルズ荘の怪事件」です。この作品はエルキュール・ポアロシリーズの第一作目としても知られていますので、ここでは、ポアロによく似たロボット探偵を出しています。

「スタイルズ荘の怪事件」

拡大「スタイルズ荘の怪事件」(アガサ・クリスティ) 作画:斉田直世

 三つ目は、柳田国男の「遠野物語」です。この作品には、天狗、河童、座敷童子など、妖怪、物の怪の類がたくさん出てきますが、ここでは、その中で一番「可愛い」と思われる座敷童子をロボットにしています。

「遠野物語」

拡大「遠野物語」(柳田国男) 作画:斉田直世

 さて、三つの4コママンガを紹介しました。前もって言っておきますと、三つとも「AI新聞」の記事によって成り立っていますが、「AI新聞」はただの小道具です。バカ殿理論と関係があるのは、「AI新聞」で紹介されているキャラクターです。

 この三つの作品では、ロボット医師のザイゼン教授、探偵ロボ、座敷童子ロボの三つのキャラクターがそれぞれ主役です。が、三つとも特に何をやっているわけではありません。台詞もありません。他のレギュラーのキャラクターたちはこの4コマの舞台の上で何かをやっています。新聞を読むとか、会話をするとか、仕事をするとか、何らかの芝居をしています。が、ザイゼン教授と探偵ロボは何もやっていません。座敷童子ロボは遊んでいますが、座敷童子ロボにとってはこれがデフォルトの状態ですので、何かをやっているうちには入らない。いずれにしても、ドラマに参加しているわけではありません。

「いい写真だ。このカニのページは、バカ殿で行こう」

 なぜ、これらのキャラクターは何もやっていないのか。答えはこうです。何もしないほうがいいからです。そして、これが志村けんが確立した

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筆者

中川文人

中川文人(なかがわ・ふみと) 作家

1964年生まれ。法政大学中退、レニングラード大学中退。著書に『身近な人に「へぇー」と言わせる意外な話1000』(朝日文庫)、『地獄誕生の物語』(以文社)、『ポスト学生運動史』(彩流社)など。本の情報サイト『好書好日』で「ツァラトゥストラの編集会議」の構成担当。総合誌『情況』にてハードボイルド小説「黒ヘル戦記」を連載中。

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