2020年06月09日
私の職業は、韓国伝統音楽家。
今は韓国を拠点に日本や世界を回って演奏活動や、後輩育成のためソウルの3つの大学で講義を行っている。
日本で生まれた在日韓国人3世だが、高校から韓国に渡り、李王朝の雅楽部養成所であった韓国国立国楽高等学校に入学(海外からの入学は私が最初で、その後いまだに一人もいない)。そして、ソウル大学音楽学部国楽科へと進んだ。
そんな私が韓国伝統音楽を日本で演奏する際、昔からよく聞かれたことがある。
日本語のできる韓国伝統音楽家として、私は、この論座の連載『ミン・ヨンチの「今日はここまで!」』で是非皆さんに韓国伝統音楽を知ってもらいたいと思っている。
韓国は日本よりは、まだ、自国の伝統音楽を身近に感じる機会があるように思う。日本にもそばらしい伝統音楽や芸能があるので、韓国の伝統音楽を知りつつ自国の伝統文化と比較してもらえればと思う。
まずはオーケストラ×ミンヨンチ、作曲オデッセイを。
「韓国のリズムの特有性は何?」
この質問が一番多いかな。
そのチャングのリズムは多様だ。4分の4拍子だけではなく、8分の12拍子や、8分の5拍子、8分の10拍子、もしくは8分の36拍子などがあったりする。
皆さんが普段良く耳にする、POPSや歌謡、バラード、ラップなどは、主に4分の4拍子でできている。たまに出てきても4分の3拍子や8分の6拍子。
ちょっと待って! 4分の!とか、8分の!とかって何ですか?
はいはい。大丈夫ですよ。
要は音楽の一小節の中が、何個の音符で構成されているかってことです。例えば、
皆さんご存知のクイーンの ‘We Will Rock You’です。
こういう風に、4拍子で構成されてます。早さはBPM82くらいでしょう。(音楽においてBPMはBeats Per Minuteを意味する。1分間の拍数を表します。つまり人間の脈の測定方と似ている)
こういう風に、だいたいの音楽が4分の4拍子。1小節が4つに分けられている(四分音符が四つ)。なので、数学の4/4=1。こんな考え方なのです。
これらは西洋の方たちが作った方式です。
僕の個人的意見ですが、25セント。1ドルを4つで割っているように、西洋の方たちは、1や10を割る時、4で割ることが多い気がします。西洋の音楽は極めて数学的で科学的なのですが、この思考が西洋音楽のリズム表記法4分の4拍子の基準になったのではないかと思います。
ところが東洋、韓国はそうではありません。
まず、1=何分の何?、という考え方で音楽を作りませんでした。
韓国伝統音楽は、ほとんど歌から派生した作曲方法です。おもに民俗学的、哲学的、宗教的に由来し、宮中音楽以外、楽譜は近年になるまでありませんでした。
労働歌から民謡になったものも多いですね。だからこそ、口伝や実演演奏によって継承されてきました。
例えば、セマチという民俗音楽のリズムがあります。8分の9拍子。
なので、1 2 3 2 2 3…と続いて行きます。
これを両面太鼓のチャングの口伝では、「ドンドンタクタ ドンドンタクタ…」と言います。
でも、単に楽譜通りに叩いて、味気なく、民俗的な雰囲気は出せません。
それで、ここに、「アリラン」が登場!!
という風に歌を歌いながら叩くと、強弱が表れ味がでます。
これに関して、韓国語でリズムのことを、「長短(チャンダン)」というのですが、見ての通り、「長い音と短い音」という意味です。
つまり長短の長は、♩or♩.(四分音符又は付点四分音符)、長短の短は、♪or♩(八分音符又は四分音符)だと思っていただければいい。
アリランでは、ア~ ~が長で表現、リランは短で表現ということになります。
この長短が、実演演奏や口伝で伝承されてきているので、そら、韓国のリズムには変拍子や複合拍子などの複雑なリズムが生まれ、またそれが時代と共に体系化されてきました。これが韓国の伝統音楽、長短の特徴なのであります。
8分の5拍子や8分の10拍子なども当たり前で音楽をやっている人はそこが面白いのですが、4分の4拍子に慣れている、現代人にはさっぱり分からないでしょう。
えーーっ!!なにそれーー!?
だって、We- Will We- Willも4分の4拍子で慣れていますが、5拍子や10拍子もけど、心配しないで。簡単です。歌なのです。歌詞のある歌だから、歌で覚えればあなたももう5拍子10拍子の世界に入れます。
5文字のことば、例えば、ア・イ・シ・テ・ル。
この5文字のアイシテルを休みなく、繰り返してください。
アイシテルアイシテルアイシテルアイシテル……
もうそれで、5拍子や10拍子の音楽なのです。
では、5拍子や10拍子の曲に対して、どう乗ればいいのですか? ともよく聞かれます。首を左右に振って音楽に乗る場合、4拍子の場合は偶数なので右左右左……と、身体を揺らしやすい。
5拍子や変拍子の場合は、∞無限大をイメージして、体や頭を揺らせばいいのです。まるで、スティービー・ワンダーのようになりますが、それが良いのです。
彼は目が見えないと言われていますね。だから他の人の動きは気にならないし、だからこそ自分なりの自由な乗り方、揺らし方です。スティービー・ワンダーの乗り方って、∞無限大の動きに見えませんか?
今日は、ここまで。
難しくなってしまいましたが、今日は、韓国の伝統音楽の中でも民俗音楽について知ってもらいたかったのです。こんな感じで、これからも韓国伝統音楽に関することを書いていきたいと思っています。
P.S.
年末に企画してる日韓文化交流 日本ツアー。
日本能楽堂での韓国伝統音楽“アリランロード”ツアー(仮題)。新型コロナウィルスの影響でどうなるかわかりませんが、経過を随時ご報告しますので、みなさんのあたたかいご協力是非よろしくお願いします。
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