メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

【8】人を見る目を変える技術・「左門豊作効果」

ものの背景を知ると、同じものが違って見えるようになります

中川文人 作家

才能も個性も必要なし

 「4コママンガにも作り方というものがあるんですね」

 先日、この連載を読んでくれている友人に、こう言われました。

 「私はてっきりこういうのって、パッと閃いてできるのかと思っていましたが、型とか理論とかいろいろあるんで驚きました。いろんなことを考えながら作っているんですね」

 友人にこう言われて、私は今から約30年前、広告制作プロダクションに就職し、コピーライターとして制作の仕事に関わるようになった頃のことを思い出しました。

 あれはたぶん、はじめて上司と飲みに行った時のことだと思います。ガツガツと焼き鳥を食べる私を見ながら、上司はこう言いました。

 「制作の仕事はすべて理詰めだ。全部、理屈だ。このことは肝に銘じておけ。センスとか才能とか、そういうものは必要ない。そういうものを活かしたいと思うのなら、他の仕事を選んだほうがいい」

 私はそう言われて、「えっ、そうなんだ。じゃあ、センスや才能がなくてもやっていけるんですね」と大喜びしたのですが、上司はそんな私を見てニヤリと笑うと、さらにこう言いました。

 「才能なんて必要ない。むしろ、才能なんてない方がいい。俺は才能のある人間を何人も見て来たが、ものになったやつは一人もいない。なぜか、わかるか」

 才能のない私に、才能のある人間のことなどわかるわけがない。私がそう答えると、上司はこう言いました。

 「才能のあるやつは才能に頼る。だから、ダメなんだ。才能なんて水物。あてにしていいものではない。が、才能のあるやつは才能をあてにする。どんな問題も才能が解決してくれると信じている。が、才能は気まぐれだ。人の都合など考えない。いつも助けてくれるとは限らない。だから、結局、才能のあるやつは、才能に振り回されて終わる。俺はそんなケースをいくつも見てきた。だから、才能のあるやつには何も期待しない。その点、おまえは見どころがある。期待しているぞ」

 私は褒められているのかバカにされているのか、よくわからなかったのですが、この上司を信じようと思いました。

 ついでに言っておきますと、上司は「個性も必要ない」と言っていました。

 「こういう仕事は個性的なやつが向いていると思われているけど、あれは誤解だ。個性なんて必要ない。制作の仕事はすべて理詰め。だから、個性なんて入る余地がない。だから、個性なんて誰も問題にしない。この業界にへんなやつが集まってくるのは、それが原因だ。個性が活かせるから集まってくるんじゃない。個性が問題にされないから集まってくるんだ」

 この頃、私はすでに自分の個性がけっして一般受けするものではないことを知っていたので、「個性は問題にされない」という上司の言葉に大いに励まされたものです。

人を見る目が変わる左門豊作効果

 さて、友人との会話に戻ります。この連載を読んでくれている友人は、「4コママンガを見る目が変わった」と言っていました。

 「型とか理論とか、そういう制作の背景を知ったことで、4コママンガを見る目が変わりました。新聞の4コママンガを見て、おっ、今日のは杜甫型だ、と気づくと嬉しくなります。新聞を読む楽しみが増えました」

 ものの背景を知ると、そのものの印象が変わる。同じものを見ているのに、違うものに見えるようになる。私たちの世界では、これを「左門豊作効果」と

・・・ログインして読む
(残り:約2423文字/本文:約3806文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

中川文人

中川文人(なかがわ・ふみと) 作家

1964年生まれ。法政大学中退、レニングラード大学中退。著書に『身近な人に「へぇー」と言わせる意外な話1000』(朝日文庫)、『地獄誕生の物語』(以文社)、『ポスト学生運動史』(彩流社)など。本の情報サイト『好書好日』で「ツァラトゥストラの編集会議」の構成担当。総合誌『情況』にてハードボイルド小説「黒ヘル戦記」を連載中。

中川文人の記事

もっと見る