「文化芸術復興基金」の創設を求めて
コロナ禍の中で映画・音楽・演劇が合流【下】
シライケイタ 劇団温泉ドラゴン代表、劇作家、演出家、俳優
なぜ「文化芸術復興基金」が必要なのか

映画、音楽、演劇の3ジャンルが手を携え「文化芸術復興基金」の創設を訴えた配信イベント。リモートで多彩なアーテイィストが発言した=2020年5月22日、東京・渋谷
本来作り手は、自分の作品のことだけ考えていたいものです。一日中作品のことを考えていられたらそれが何より幸せなことです。ましてや、政治や行政に近づきたいと思う表現者はほとんどいないのではないでしょうか。
表現の場所や表現者が、当たり前のように文化の担い手として認められ、社会の一員として存在することができていれば、誰も政治や行政に近づく必要は無いのです。しかし、そんなことを言っている場合じゃないという現実に直面して、ジャンルを超えて作り手たちが連帯し、共に声をあげる選択をしたのです。
前回の原稿の冒頭で、我々の要請内容が「文化芸術復興基金を創設して下さい」というものだったと書きました。実は、要望している我々もこの基金の内容について細部まで仕組みを構築できているわけではありません。とにかく一刻も早く補償を求めなければ日本の文化芸術にとって大変な損失になる、という危機感のみで大枠を作り上げ、分配方法などの細かい部分はその後の課題として動き出したのです。
第2次補正予算で文化芸術に対し560億円の予算がつきそうだと書きました。これは、我々を含め多くの声が日本中から上がったことの成果だと思っています。
しかしこの予算は、短期的な緊急措置としての予算です。現状を救うために一定の効果はあると思いますが、本質的に重要なのは、長期的に見た時に文化芸術を守るためのセーフティネットです。2011年の震災の時もそうでしたが、不測の事態で一定期間文化活動が止まってしまうことがあり得るということが明確になった今、想定外の災禍に対して恒常的に機能する備えとして、基金の創設が不可欠だと思っています。
今回の補正予算には、損失に対する保障という概念は盛り込まれず、あくまでも今後の活動に対する支援金、もしくは稽古場代やレッスン費等かかる費用に対しての充当金、という位置づけです。ですが本当に必要なことは、今現在災禍で倒れそうな才能を守ることであり、文化芸術を下支えしている人材の流出を防ぐことです。
演劇界の30近い団体が初めて合流し「演劇緊急支援プロジェクト」を立ち上げたことは前回ご説明しました。その会議上で改めて明らかになったことが、技術スタッフには圧倒的にフリーランスが多い、という現状でした。
演劇関係団体として照明家協会や音響家協会、舞台美術家協会、舞台監督協会などの職能団体が複数ありますが、そこに所属している技術者はごく一部で、実態は一匹狼のフリーランスの人達が日本中の現場を支え、まさに文化を生み出すための重要なポジションを担っているという事実があるのです。
そして現状、そういったフリーランスのスタッフの人数を正確に把握している機関は無く、支援の枠組みを作ることすら難しいという課題も浮き彫りになりました。
第2次補正予算に組み込まれた560億円はあくまでも、コロナによる被害をどう救うかという短期的な視点で考えられた支援の枠組みです。それに対して基金構想は、コロナ被害の救済はもちろんですが、それに加えてこれから先に起きる文化芸術にとっての危機の際にこそ真価を発揮できるような制度づくりの提案です。長期的な視点で作られる必要があり、だからこそ意味のあるものだと思います。