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『女帝 小池百合子』で「カイロ大学」問題はもう正直、どうでもよくなった

矢部万紀子 コラムニスト

2冊を読了すると、まるで『羅生門』のよう

 初読の際、『女子の本懐』は「本人による本人のための本」だと思った。達者な筆で日常が描かれ、ディテールを面白く読んだりもしたが、結局のところ、私って思いがけず女性初の防衛大臣に任命されてね、こんな感じでいろいろやってね、潔く55日で辞めたのよ。そういう本だった。小池さんは政策には興味がなく、政治が好きなのね、ということがはっきりわかった。

 ちなみにここで使った「政治」とは厳密な意味のそれではなく、会社などで「ほら、あの人って政治家だから」といった感じで使う時の「政治」。彼女はまさに政治家なので適切な表現になってないかもしれないが、ニュアンスはわかっていただけると思う。

防衛相当時、陸上自衛隊の富士総合火力演習に臨席、砲声に耳をふさぐ=2007年8月、静岡県東富士演習場で 拡大陸上自衛隊の富士総合火力演習に臨席した小池百合子防衛相(当時)=2007年8月、静岡県東富士演習場で

 3章からなる本で、「第一章 いざ防衛省へ」「第二章 『ひとり二・二六』との攻防」「第三章 一兵卒として」と勇ましい感じのタイトルが並ぶ。一番面白いのが、守屋武昌事務次官(当時)に交代を迫る第二章。「ひとり二・二六」とは、以下の文章からきている。「守屋次官も官邸を自由に泳ぎまわり、私の人事案阻止を訴えていたという。(略)大臣である私の人事案に、法律的には自衛隊員である次官、それも本人が異を唱えるのは、シビリアン・コントロールに反しないか。これでは『ひとり二・二六』である」。

 守屋次官は結局、退任する。小池さんも辞めたのだが、それは責任をとる潔さなのだと何度も強調している。居座る次官を交代させたのだから、「攻防」は私の勝利。それこそ、「女子の本懐」。二章からは、彼女の認識がビシビシ伝わってくる。

 一方、『女帝』は、小池さんの防衛大臣就任をこう書いている。「この人事が後々、政権に災いをもたらすことになる」。こちらはこちらで、読めば確かに災いだったと思えてくる。「事実」がどこにあるのかはわからない。2冊を読了すると、まるで黒澤明監督の映画『羅生門』のようだ。

 三章は政策論にあてているのだが、面白くない。どんな課題でも歴史を振り返り、「パラダイムシフト」が必要だと説く。どういうふうにシフトさせるかについては、自分の成功事例(環境大臣時代の「クールビズ」その他)をあげることでよしとする。女性ならではの発想がパラダイムシフトだということだろう、自分語りに熱を入れる。わからなくもないのだが、具体策をもっと知りたいと思うのは、私だけではないはずだ。ついでに書くなら、小池さんは「辺野古移転」をどう考えたか、市ヶ谷にいた一、二章にも触れられていない。

ノーネクタイの「クールビズ」のイメージを説明する小池百合子環境相(当時)=2005年4月拡大ノーネクタイの「クールビズ」のイメージを説明する小池百合子環境相(当時)=2005年4月

 女子の本懐を遂げた翌年(2008年)、小池さんは女性として初めて自民党総裁選に出馬した。5人中3位になったが、これが小池さんの「地味時代」の幕開けとなってしまう。防衛大臣を最後に大臣職には就けず、16年に都知事選に立候補。『女帝』では小池さんの都知事選出馬以降のことは、第6章に描かれている。タイトルは「復讐」だ。

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筆者

矢部万紀子

矢部万紀子(やべ・まきこ) コラムニスト

1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。宇都宮支局、学芸部を経て、週刊誌「アエラ」の創刊メンバーに。その後、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理、書籍編集部長などをつとめる。「週刊朝日」時代に担当したコラムが松本人志著『遺書』『松本』となり、ミリオンセラーになる。2011年4月、いきいき株式会社(現「株式会社ハルメク」)に入社、同年6月から2017年7月まで、50代からの女性のための月刊生活情報誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長をつとめた後、退社、フリーランスに。著書に『美智子さまという奇跡』(幻冬舎新書)、『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)。最新刊に『雅子さまの笑顔――生きづらさを超えて』(幻冬舎新書)

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