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没後10年で再び問う「つかこうへい」とは

『正伝』のその後を考える、プロローグ(上)

長谷川康夫 演出家・脚本家

550ページを超える『正伝』を書いて、なお……

拡大新潮文庫『つかこうへい正伝 1968―1982』(2020年6月刊)。2015年に単行本で出版された際は、数々の賞に輝いた
 おこがましくも『正伝』と謳(うた)ったわけだから、もちろん事実関係には正確を期したし、そこに描いたつかの想像を絶する言動やキャラクターにも、一行たりとも誇張はない。むしろ文字にすることで表現が抑えられ、「こんなもんじゃなかった」というのが仲間たちの声である。

 ただし単行本で550ページを越える長尺となったその〝記録〟が、我々やその関係者、さらにつかこうへいという存在や彼の作品に何らかの影響を受け、時代を共有した者たちには価値を持っても、果たして一般の読者にとってどうなのか、何より読み物として成立しているのか、そんな疑問は今でも消えないままだ。

 なのにここでまた、言い訳がましく「今年はつかさんの没後10年ですからねぇ」と頭を掻いてみせながら、つかとその時代について書こうとしている自分にはため息をつくしかない。

 正直なことを言うと『つか正伝』はあれだけの分量になりながら、初校ゲラの段階で100ページほどカットしており、そのとき消えてしまったいくつかのエピソードを引っ張り出したり、あえて触れなかった83年以降の何年か、まだ僕がかろうじて傍にいた頃のつかの姿を思い返したりすれば、『つかこうへい外伝』とでもタイトルを掲げ、新たなものが書けるかもしれないと、安請け合いしてしまったのである。「またつかこうへいの名で商売しようとしてるのか」との誹(そし)りは覚悟の上だった。

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筆者

長谷川康夫

長谷川康夫(はせがわ・やすお) 演出家・脚本家

1953年生まれ。早稲田大学在学中、劇団「暫」でつかこうへいと出会い、『いつも心に太陽を』『広島に原爆を落とす日』などのつか作品に出演する。「劇団つかこうへい事務所」解散後は、劇作家、演出家として活動。92年以降は仕事の中心を映画に移し、『亡国のイージス』(2005年)で日本アカデミー賞優秀脚本賞。近作に『起終点駅 ターミナル』(15年、脚本)、『あの頃、君を追いかけた』(18年、監督)、『空母いぶき』(19年、脚本)などがある。つかの評伝『つかこうへい正伝1968-1982』(15年、新潮社)で講談社ノンフィクション賞、新田次郎文学賞、AICT演劇評論賞を受賞した。20年6月に文庫化。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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