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韓国伝統打楽器「チャング」のおはなし

ミン・ヨンチ ミュージシャン 韓国伝統音楽家

 日本と韓国の伝統楽器は似ています。日本のお琴は韓国のカヤグムに似ているし、木管楽器の篳篥(ひちりき)はピリに似ています。

国楽管弦楽団とのコンチェルト
 私が主に演奏している両面太鼓チャンゴは、鼓(つつみ)を大きくした感じです。日本の雅楽で奏でられる音楽も、音だけ聞くと韓国の宮中音楽(正楽)と区別がつかない人がいるのではないかなと思います。

 韓国の代表的な伝統楽器には、弦楽器(カヤグム コムンゴ)、木管楽器(テグム ピリ)、摩擦音楽器(ヘグム アジェン)、打楽器(チャング ケンガリ)があります。

 その中でも今日お話しさせていただくのが、チャングという韓国伝統打楽器です。

チャングとの出会い

 チャング、漢字では、「長鼓」もしくは「杖鼓」と書きます。

 日本の鼓太鼓を二回りほど大きくした両面太鼓。両面に動物の皮を張って、竹でできたバチで両面を打ちます。筒は砂時計のような形をした、桐木をくりぬいて作ったもの。その形が、昔は女性の胴体にたとえられ、胴の真ん中がくびれているので、当時別名、腰鼓ともいわれていました。

 私はこの楽器を、10歳のころから学びました。日本で。

 大阪韓国人学校、金剛学園です。そこには、いろいろなクラブがあり、ブラスバンド部や韓国舞踊部などもありました。私は10歳からブラスバンド部に入ってドラムを担当。韓国人学校でしたので、行事も多く、その時に韓国の民謡などをよく演奏しました。

 そのころブラスバンド部の指揮者の先生が、「ミン君、韓国民謡なんだから、ドラムではなく韓国の伝統楽器チャングで演奏してはどうかな?」と提案され、その通り何曲かチャングで演奏し始めたのが、私とチャングとの出会いです。

 チャングがなぜ演奏できたかって?

 それはですね、金剛学園には、韓国伝統舞踊部があったのもありますが、お祭りや行事、文化祭や体育祭では、全校生徒が必ず韓国伝統芸能を披露するのです。授業でも習いますし、楽器が学校中のそこらへんに転がっており、いつでも叩くことが出来ました。

 そして、先輩たちの演奏を幼い時から見ていた私には、なんとなくチャングができたのです。

 その後、韓国にわたり、チャングを専門的に習うようになりましたが、物心がついた時にはチャングと接していましたので、ほかの誰よりも、苦労なく教わったのを覚えています。

馬、羊、牛、そして犬の皮

 そのチャング、素材は胴は桐木でできていますが、皮はというと、これが日本の方たちにビックリされます……もちろん全てではありませんが、主に、馬の皮、羊の皮、牛の皮、そして犬の皮が使われます。

 えーー!! 犬の皮――!!! と、日本ではよく言われます。

 そうです。間違いありません。犬です。ワンワン。

 けど、ご心配なく。犬といってもペット用ではなく、食用です。

 食、食用……ええ___!!! 食用!! 犬食べるのーー!!

 はい、食べます。犬を食べる国は多いと聞いております。(ちなみに私は食べません)

 文化の違いですから、みなさん。そう引かないでください。

 逆にね、韓国の人に、日本の伝統楽器には猫の皮が使われていて、日本人は馬肉を食べるよっていったら、同じく物凄く引かれます。文化の違いなのです。

激しく叩く

 そしてチャンゴは、伝統音楽では、ほぼすべての曲に登場します。

 宮中音楽から民族音楽まで。日本では雅楽から地方の民謡までということになりますかね。西洋の音楽では、ピアノよりも神出鬼没です。

 よって、韓国の代表的な音楽大学や国楽(韓国伝統音楽)科には、チャング専攻があります。チャング専攻を卒業すると、楽団に就職したり、打楽器やサムルノリのチームを作ったりして、国内だけでなく、海外へと積極的に公演に出かけ幅広く活動しようとします。

チャング。中野サンプラザ新韓楽リハーサル時
 チャングは、大変ユニークな楽器で、両面をハイと、ローの音で分け、竹のバチでまるでサーカスのように打ちます。これが、日本ではウケるのですが、私が2002年NHKニューイヤー・オペラコンサートに出演した際は、司会の内藤剛志さんが「超絶技巧」と連呼してくださり、一緒に出演した韓国のオペラ歌手スミ・ジョーさんを前に恥ずかしかったことを覚えています。

 でも、それくらい激しく叩くんですね。

 ほかの国の打楽器奏者に会うと、すごく喜ばれ、うらやましがられたりもします。

 「ミン君、このチャングって楽器は一生モンだね!」などと、何人かの世界的ドラマーにも言われました。

 けど、こんな出会いもありました。

 打楽器として世界的に有名か、複雑で難しいで有名なアフリカやインドなどの打楽器と舞台を共にする時。

 このアフリカやインドなどの方たちのセッションをした時は、バックステージでもお互い言葉も交わしません。プライドの張り合い! どちらの国の楽器が優秀なのかの競い合いが始まります。これは面白いですよー。

 私が思うに、アフリカやインド、そして韓国の打楽器は、変拍子や複合拍子と呼ばれる複雑なリズムがバンバン出て来る。その共通点があるから、お互いを意識するんでしょうね。舞台人は、お客さんの拍手の量を気にします。誰が一番の拍手を取るのか。緊張感と集中力が頂点に達しますからね。でも公演終了後は、みなとても仲良くなります。

 フフフ、また、やりたい。

日韓のPOPSの原点

 先日も、今日も説明しましたが、韓国のリズムは複雑です。8分の5、8分の6、8分の10、8分の15など。

 西洋のドラマーたちの多くにも理解できません。それに比べて日本の和太鼓は基本4拍子なので、ほかの音楽と合わしやすいです。どちらがいいか?は分かりません。音楽に正解はありませんから。

 けど、こんなことを感じます。

 日本の祭りは、真ん中に太鼓と歌い手がいて、周りで振りを合わせて踊ります。盆踊りみたいに親しみやすい振り付けで、観客も振りを合わして、演奏者とシンクロして踊ります。

 韓国は難度のあるものを好み奏で踊る。

 韓国の祭りは、打楽器を体に括り付けて、観衆の中に入っていくように観衆も一緒になって踊ります。

 もしかしてこれは今の日韓のPOPSの原点かもしれませんね。

 やはり、伝統を知れば面白いですね。

 ではでは、今日はここまで。

 今日は特別に師匠キムドクス先生と私のチャングDuoを。

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