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【ヅカナビ】花組『はいからさんが通る』を予習してみる

大劇場公演再開は新トップ・柚香光のお披露目から

中本千晶 演劇ジャーナリスト


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 ついにタカラヅカの公演再開が発表された。心配は尽きないし色々な制約も多いが、とにかく再開が決定したことを喜びたい。待ちに待った花組・柚香光の大劇場での新トップお披露目がようやく実現する。

 お披露目公演となる『はいからさんが通る』は2017年シアター・ドラマシティ(大阪)・日本青年館(東京)にて今回と同じ柚香光・華優希のコンビで上演された作品である。今回は大劇場バージョンでの再演となり、前回出演者の組替えや退団などもあったため、配役変更や新たに加わった役もある。前回なかったフィナーレが付くのもお楽しみだ。しかも、軍服の群舞があるパターンと黒燕尾の群舞があるパターン、2つのパターンがあるらしい。

 また、原作者の大和和紀さんへのインタビューによると、大劇場公演ということで構成も少し変わるようだ。少尉のエピソードも増え、「彼の内面を掘り下げ、人間的に重みのある役になっている」とのこと(文春オンライン2020/2/4 17:00配信)。予習も兼ねて、『はいからさんが通る』の初演を振り返り、初演・再演のキャストも比較しつつ、見どころを予想してみたいと思う。

 まずは2017年版をもとに、あらすじを復習してみよう(カッコ内は今回の配役・ネタバレあり)。タカラヅカ版は原作の全編をうまくまとめ上げたような形になっている。

(1幕)
 花村紅緒(華優希)と伊集院忍(紅緒からは「少尉」と呼ばれている・柚香光)は、互いの祖父・祖母の悲願により婚約が取り交わされた仲だ。嫌々ながら伊集院家に花嫁修行にやってきて次々と事件を引き起こす紅緒を忍は温かく見守り、紅緒も次第に忍の優しさに心惹かれていく。ところが、忍のことを良く思っていない印念中佐(優波慧)の差し金で忍は小倉に転属に。さらにシベリア出兵の最前線に送られる。部下の鬼島軍曹(水美舞斗)を助けようとした忍は重症を負い行方知れずになってしまう。

(2幕)
 忍のいない伊集院家を支えるべく、冗談社の編集部員として働き始める紅緒。取材先で出会ったロシアからの亡命貴族・ミハイロフ公爵は忍に瓜二つだった。じつはシベリアで忍は異父弟であるサーシャの妻・ラリサ(華雅りりか)に命を救われたのだった。記憶を失った忍はサーシャとして生きていたが紅緒との再会で記憶を取り戻す。

 いっぽう女嫌いの編集長・青江冬星(瀬戸かずや)もまた紅緒に思いを寄せるようになっていた。反政府運動との関わりの嫌疑で投獄されてしまった紅緒を忍は救い出すが、ラリサの存在を知った紅緒は忍と別れる決意をし、冬星の求婚を受け入れる。結婚式の日、二人が誓いを立てようとしたその瞬間に関東大震災が起こった。ラリサは身を賭して少尉の命を救い、息絶える。炎の中の紅緒の元に忍が駆け付け、二人はようやくお互いの思いを確かめ合うことができた。冬星は潔く身を引くのだった。

青江冬星、高屋敷要など楽しみな新キャスト

 注目のキャスト変更の第一は編集長・青江冬星だろう。初演の鳳月杏が漫画そのままのクールだがちょっとユーモラスな雰囲気を見事に再現して見せた役どころだ。その鳳月が組替えになったため、今回演じるのは瀬戸かずやだ。一見、熱く男臭い芸風の印象だが、よくよく考えるとアンドロイド役(『アイラブアインシュタイン』)から「心は女」の役(『蘭陵王』)まで引き出しは豊富なはず。最近では、東野圭吾の小説を舞台化した『マスカレード・ホテル』での主演も印象に残っている。その瀬戸かずやが青江冬星役をどんな風に「料理」してみせてくれるのか、楽しみだ。

 そしてもう一つの注目は雪組から組替えしてきた永久輝せあがどの役を演じるのか?ということだったが、何と高屋敷要役にキャスティングされた(初演は亜蓮冬馬)。2017年版での出番は少なかったが、忍の友人であり小説家、2幕では紅緒を窮地に陥れる事件にも深く関わる人物であるため、膨らませることができそうな役どころだ。『歌劇』の座談会によると、今回は物語全体の狂言回し的な役割も務めるとのこと。スタイリッシュな少尉とバンカラな高屋敷の並びも楽しみだ。柚香との芝居の見せ場も増えるといいなと期待している。

 原作を読んだ直後から「タカラヅカ版ではこれは一体誰がやる?」と気になってしまった強烈なキャラクターが「車引きの牛五郎」役だった。幸い初演時には花組の誇るコメディエンヌ・天真みちるがいた。その天真が退団したため、今回は飛龍つかさがこの役に挑戦する。二枚目だが「マスカレード・ホテル」でのコミカルな芝居も記憶に新しい。きっと前回とは一味違う、元気で溌剌とした牛五郎を見せてくれるに違いない。

 紅緒の親友・北小路環が音くり寿(初演は城妃美伶)で、パワフルな女子コンビが見られそう。きっぷのいい芸者・花乃屋吉次を「日本物の雪組」から組替えで戻ってきた朝月希和が演じる(初演は桜咲彩花)。憎まれ役の印念中佐(初演は矢吹世奈)の優波慧も楽しみだ。花組組長・高翔みず希が演じる「リーダー」は反政府運動のリーダーのことである。このあたりの配役からも紅緒が窮地に陥るくだりがパワーアップして、ドラマとしての起伏も増しそうだ。

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筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『タカラヅカの解剖図館』(エクスナレッジ )、『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)など。早稲田大学非常勤講師。

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