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コロナ禍にブッシュマンから学ぶ――「足るを知る」という豊かさ

「際限のない成長と発展の破壊的スパイラル」から抜け出すには

堀 由紀子 編集者・KADOKAWA

余剰を避け、平等主義を徹底する

 そもそもブッシュマンは、現在でこそ南部アフリカでは(そして世界でも)マイノリティの種族だが、遺伝子の調査から、彼らが過去15万年にわたって、現生人類で最大の人口を擁していたことがわかっている。その間、人口も比較的安定していたという。「持続可能」という視点から見れば、もっとも成功してきた人々なのだ。その理由を著者はこう分析する。

 「ほかの土地に次々と入植したり、活動の空間を拡大して人口を増加させたり、新たな技術を開発したからではなく、自分たちがいる場所で暮らしを立てる技術を習得したからだった」

chrisdaviezshutterstock拡大chrisdaviez/Shutterstock.com

 つまり、自分たちが今いる環境が与えてくれるものに満足して暮らしているというのだ。そんなことが可能なのだろうか? 「そんなはずはない」という警戒心が先に立ってしまったが、著者はフィールドワークの成果をいかんなく発揮する。その記述は具体的で、人々の表情、風やにおいまで感じられて、読んでいて本当に楽しい。その一端を紹介したい。ブッシュマンはこんな人たちだ。

・過去と未来をほとんど重要視しない
・食べ物を蓄えない。必要な時だけ採集や狩猟に出かける
・果物がたくさんなる季節でも、果物が少ない季節に備えて、乾燥させるなどの保存をしようとしない
・獲物が少ないときに備えて肉を保存することもない
・肉をすべて食べ尽くすまで次の狩りをしない
・結婚でも離婚でも大騒ぎしない
・男女平等
・多くは死ぬまで一夫一婦婚を喜んで維持する
・離婚しても精神的に不安定になることはめったにない
・年に10回ほど野営地を移動する。土地所有という概念がない

 だから、「必要以上の労力を費やさずに、短期的な最低限のニーズを満たすという暮らしを受け入れている」のだ。老子の「足るを知る」を何万年も実践し、受け継いできた人々ということになる。

 そんな彼らのコミュニティの大原則は、「強烈なまでの平等主義」だ。この平等主義こそが、持続可能な社会を可能にしてきた。まずこの社会には指導者がいない。ヒエラルキーはなく、話し合いによって方向性が決められ、ルールを守りながら関係性を築いている。

 平等への考え方は徹底している。たとえばこうだ。狩りで獲物を仕留めても褒められたりはしない。それどころか周囲からは「こんな少しの肉」「持ち帰る価値もない」などと侮辱されるという。

 「狩人は、獲物を差し出すときにあくまでも謙虚に、申し訳なさそうな態度を示すことが求められ、決して手柄を自慢しない」

 といってもこれらは一種の茶番劇で、だれもがパフォーマンスであることを了解している。こうすることで、狩りの上手い者や体力のある若者の気持ちを冷ます。傲慢に陥ることなく、分かち合いの大切さを学んでいく。

 逆に考えたらわかりやすいかもしれない。もし人々が仕留めた者を褒めたらどうなるか。仕留めた者は、得意げになり、傲慢になることもあるかもしれない。褒めている方には、仕留めた者に対しての嫉妬が生まれる。嫉妬は争いを引き起こす。それを回避するには嫉妬を押し込めるしかない。そのために人々は、「他人が傷つけられたと感じることのないよう気を配り、礼儀正しく仲間に接し、ときには陽気にからかうことを大切にしている」。

 このように、狩猟採集社会は、余剰を避け、平等主義を徹底することで、長きにわたり、社会を持続できたのだ。

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筆者

堀 由紀子

堀 由紀子(ほり・ゆきこ) 編集者・KADOKAWA

1975年、山梨県生まれ。1999年より角川書店で、主婦向けのテレビ誌「しってる?」、スポーツ誌「SPORT Yeah!」、都市情報誌「横浜ウォーカー」の編集に携わる。2012年より書籍編集に。担当した書籍は、柳田国男復刊シリーズ(角川ソフィア文庫)、黒田勝弘『隣国への足跡』、望月衣塑子『武器輸出と日本企業』、室井尚『文系学部解体』、柴田一成『とんでもなくおもしろい宇宙』など。ハードボイルド小説と自然科学系の本が好き。