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コロナ禍にブッシュマンから学ぶ――「足るを知る」という豊かさ

「際限のない成長と発展の破壊的スパイラル」から抜け出すには

堀 由紀子 編集者・KADOKAWA

ブッシュマンたちと正反対に突き進む現代社会

 ここまでくるとどうだろう。私自身は、本書を読む前に持っていたブッシュマンに対するイメージがあまりにもとんちんかんだったと思い知る。

 一方で、成功した農耕牧畜社会はそれとは反対のことを行った、と著者は指摘する。災害や気象変動などに対し、余剰をリスクの備えにした。余剰が労働の報酬とみなされ、報酬を稼ぐようになり、「富」が生み出された。貨幣が導入され、循環をつかさどる権力者が生まれた。余剰を持つか持たないかによって、平等と不平等にこれほどまでに大きな差が生じるのか……。

Gil.K拡大Gil.K/Shutterstock.com

 富を生み出すためには「産業や努力やイノベーション」しかない、という考えが行きわたっている。もちろんそれが社会を「豊か」にしてきたことは間違いないが、著者の「際限のない成長と発展の破壊的スパイラル」という強い表現には、現状への憂いが感じられる。具体的に指摘するまでもなく、現代社会はまさにそれだ。

 深まった新自由主義で、富むものはますます富んでいる。規制緩和を推進し、公共が担っていた業務を民営化し、企業への規制を緩めれば、市場が活性化すると考えられた。そして富裕層からのトリクルダウンが起きるとされたが、どうだろうか。貧富の差は世界の国々で問題になっている。ブッシュマンたちの強烈なまでの平等主義とは正反対に突き進んでいる現代の社会は、数万年という単位で持続可能だろうか。

 そして今回の新型コロナウイルスだ。1万分の1ミリという目にも見えない極微の存在が、私たちの社会の脆弱さを明るみにさらけ出した。突っ走ってきた私たち一人一人に、立ち止まり、考えることを余儀なくさせた。「成長ありき」「効率化」「自己責任」「グローバル化」――世界が目指してきたお題目は本当に正しいのか。狩猟採集民からなにかヒントを得られるだろうか。

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筆者

堀 由紀子

堀 由紀子(ほり・ゆきこ) 編集者・KADOKAWA

1975年、山梨県生まれ。1999年より角川書店で、主婦向けのテレビ誌「しってる?」、スポーツ誌「SPORT Yeah!」、都市情報誌「横浜ウォーカー」の編集に携わる。2012年より書籍編集に。担当した書籍は、柳田国男復刊シリーズ(角川ソフィア文庫)、黒田勝弘『隣国への足跡』、望月衣塑子『武器輸出と日本企業』、室井尚『文系学部解体』、柴田一成『とんでもなくおもしろい宇宙』など。ハードボイルド小説と自然科学系の本が好き。