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コロナ禍にブッシュマンから学ぶ――「足るを知る」という豊かさ

「際限のない成長と発展の破壊的スパイラル」から抜け出すには

堀 由紀子 編集者・KADOKAWA

労働とは別の充足感のある生き方

 著者は終章でこう言っている。

 「狩猟社会を通じて見えたことは、マルクスも新自由主義の経済学者も人間の本質を誤って捉えているということだ。人間は労働によって定義されるのではなく、別の充足感のある生き方を十二分に送れる能力があるのだ」

 強欲を手放し、余剰を見直す。傲慢を戒め、嫉妬を封じ込め、足るを知る。こんなふうに書くと、なんだか修行僧のようにも感じられるが、私自身は現状になんだか行き詰まりを感じていることも事実なので、少しずつ考えを試していきたい、と思った。

2630ben拡大2630ben/Shutterstock.com

 最後に、今回の内容とは離れるが、現在のブッシュマンについても少し触れておきたい。

 連綿と受け継がれてきたブッシュマンたちの社会は、1400年代以降、苦難の連続だ。ポルトガルの南洋支配の幕開け以降、ブッシュマンはグローバル化の波に巻き込まれていく。支配、差別、暴力の嵐のなかで、1980年代までは7万人ほどのブッシュマンがいたが、すでに完全に狩猟採集で生活する者はいなくなっていた。

 現在、ブッシュマンたちは、「定住地」と呼ばれる決められた場所か、白人農場主に雇われて暮らす。街の周縁部の劣悪な環境下で暮らす者もいる。何万年もの歴史を受け継いできた成長と発展を至上命題としない生活スタイルが失われてしまったのはなぜなのだろう。それについても改めて考えてみたい。

 また有名な映画『コイサンマン』について記した章もある。私は数年前にたまたまこの映画を観ていたが、ストーリーは忘れてしまっていて、小さな男の子の輝く瞳だけがとても印象に残っていた。なぜこんな笑顔で生きられるのかと不思議に思ったのだが、本書を読んだ今は腑に落ちた。

 さて、冒頭の本屋さんに戻れば、閉店する日、私は小さな花束を持ってお店に行った。年配の女性店主に渡し、お礼を伝えた。最後にお店をぶらぶらしながら、この本屋さんがそれまで私の日常に投げかけてくれたあれこれを思った。豊かさとは何だろう。まだ答えは見つからない。

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筆者

堀 由紀子

堀 由紀子(ほり・ゆきこ) 編集者・KADOKAWA

1975年、山梨県生まれ。1999年より角川書店で、主婦向けのテレビ誌「しってる?」、スポーツ誌「SPORT Yeah!」、都市情報誌「横浜ウォーカー」の編集に携わる。2012年より書籍編集に。担当した書籍は、柳田国男復刊シリーズ(角川ソフィア文庫)、黒田勝弘『隣国への足跡』、望月衣塑子『武器輸出と日本企業』、室井尚『文系学部解体』、柴田一成『とんでもなくおもしろい宇宙』など。ハードボイルド小説と自然科学系の本が好き。