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コロナ禍にブッシュマンから学ぶ――「足るを知る」という豊かさ

「際限のない成長と発展の破壊的スパイラル」から抜け出すには

堀 由紀子 編集者・KADOKAWA

 新型コロナウイルスで日々、小さな混乱が続いていた4月、私にとって大きな出来事があった。折りに触れて立ち寄る少しだけ離れた駅にある本屋さん。ステイホーム中に行ったある日。

 なんだかすかすかしている……。平台の面が見えているところ、本が入っていない棚……。コロナで本の入荷が遅れているのだろうか? 奥に行くと、段ボール箱が積み重なっていた。見ると、大手取次の名前が印字されている。まさか。

 お会計に行くと、台に「閉店のお知らせ」が貼ってあった。

 「本当ですか、閉店」

 レジの男性に聞くと、

 「そうなんです。ありがとうございました。〇日までやっていますので」

 と答えてくれた。

 この書店さんは、いかにも町の本屋さんという感じの2階建てで、夜も遅くまでやっていてありがたかった。あるのが当たり前だっただけにショックで茫然とした。新型コロナウイルスが影響したのか、その前から決めていたのかはわからない。だけど、この目に見えない微生物は、私たちの社会に大きな問いを投げかけていることは間違いない。

 その日、出会ったのがこの本だ。『「本当の豊かさ」はブッシュマンが知っている』(ジェイムス・スーズマン著、佐々木知子訳、NHK出版)、原題は『Affluence without Abundance:What We Can Learn from the World's Most Successful Civilisation(豊かさのない豊かさ 世界でもっとも成功した文明から私たちが学べること)』。

『「本当の豊かさ」はブッシュマンが知っている』(ジェイムス・スーズマン著、佐々木知子訳、NHK出版)拡大ジェイムス・スーズマン著『「本当の豊かさ」はブッシュマンが知っている』(佐々木知子訳、NHK出版)
 オビにはこうある。

 「想像してみよう、週に15時間しか働かなくていい社会を。」

 コロナ禍になんてタイミングのいい本なのだろうと思って奥付を見ると、刊行されたのは2019年10月。元の本は2017年というから、その予言めいたタイミングにさらに驚いてしまう。

 この本は、イギリスの社会人類学者、ジェイムス・スーズマンが、1994年から20年以上にわたって南部アフリカでさまざまな先住民(ブッシュマン)のグループとともに暮らして得た知見をもとに書かれている(ブッシュマンという語は一般的に差別を伴う語と考えられているが、それについては本書の冒頭で丁寧な解説がある)。スーズマンが調査したのは、アフリカ南部、ナミビアとボツワナの国境あたり、カラハリ砂漠のど真ん中で暮らす狩猟採集民だ。

 砂漠という厳しい環境、襲い来る野生動物、乏しい資源……たいへんな生活を強いられてきた人々なのではとイメージしてしまうが、本書では、その固定観念が次々と打ち破られていく。

/Shutterstock.com拡大Danita Delmont/Shutterstock.com

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筆者

堀 由紀子

堀 由紀子(ほり・ゆきこ) 編集者・KADOKAWA

1975年、山梨県生まれ。1999年より角川書店で、主婦向けのテレビ誌「しってる?」、スポーツ誌「SPORT Yeah!」、都市情報誌「横浜ウォーカー」の編集に携わる。2012年より書籍編集に。担当した書籍は、柳田国男復刊シリーズ(角川ソフィア文庫)、黒田勝弘『隣国への足跡』、望月衣塑子『武器輸出と日本企業』、室井尚『文系学部解体』、柴田一成『とんでもなくおもしろい宇宙』など。ハードボイルド小説と自然科学系の本が好き。