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どことなく、クリスタル

 この作品が書かれたのは60年安保闘争の翌年である。倉橋は戦後史の分水嶺となったこの年に、学生作家としてデビューした。左翼的情熱に生涯縁のなかった(らしい)倉橋のデビュー作が「パルタイ」と命名されていたことはどこか皮肉である。

倉橋由美子の「パルタイ」が収録された本=1960年拡大倉橋由美子のデビュー作「パルタイ」=1960年

 パルタイすなわち「党」への加入を希望する女性の主人公は、経歴書の提出を求められる。過去の事実(貧困や差別)の累積を示し、パルタイにふさわしい人間であることを証明する必要があるからだ。

 ところが、革命という大目的の権化である「党」が常に必然性(客観的因果)を求めるのに対し、主人公は逆に投企性(主体的選択)の中に革命の可能性を見ようとする。「目的」に隷属することの不自由さを主人公は「オント(honte)」すなわち「恥」と感じたのである。

 「パルタイ」は当時、ふた通りの解釈へ開かれていた。ひとつは日本共産党の閉鎖的・官僚的組織風土への批判であり、

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筆者

菊地史彦

菊地史彦(きくち・ふみひこ) ケイズワーク代表取締役、東京経済大学大学院(コミュニケーション研究科)講師

1952年、東京生まれ。76年、慶應義塾大学文学部卒業。同年、筑摩書房入社。89年、同社を退社。編集工学研究所などを経て、99年、ケイズワークを設立。企業の組織・コミュニケーション課題などのコンサルティングを行なうとともに、戦後史を中心に、<社会意識>の変容を考察している。現在、株式会社ケイズワーク代表取締役、東京経済大学大学院(コミュニケーション研究科)講師、国際大学グローバル・コミュニケーションセンター客員研究員。著書に『「若者」の時代』(トランスビュー、2015)、『「幸せ」の戦後史』(トランスビュー、2013)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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