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米政治の底流の変化を描いた『ニクソンのアメリカ』(松尾文夫)

ニクソンとトランプ。半世紀を隔てた2人のアメリカ大統領の共通点とは

三浦俊章 ジャーナリスト

現代という混迷の時代をどう読み解くべきか。様々なアプローチがあるが、このコラムでは、書物の世界にヒントを求めてみよう。東西の古典、埋もれた名著、意外な著者の意外な本……。ジャンルを問わず、現代史の流れを読み解く補助線を探していく。初回のテーマは、半世紀前に人種対立をあおる政治戦術を打ち出し、今日の分断社会アメリカへの流れを生んだニクソン大統領の政治である。

トランプ政治の源流は半世紀前のニクソンにあった

拡大『ニクソンのアメリカ アメリカ第一主義の起源』(岩波現代文庫)
拡大『ニクソンのアメリカ』(サイマル出版会)

 半世紀前に、リチャード・ニクソン(1913年生まれ、1994年死去)というアメリカ大統領がいた。ライバル民主党の全国委員会本部に対する盗聴事件とそれをもみ消そうとしたスキャンダル(ウォーターゲート事件)で、任期途中で大統領辞任に追い込まれた。ホワイトハウスでの会話をひそかに録音していた秘密主義、権謀術数を好む性格……悪の典型のように描かれることが多い人物である。

 だが、ニクソンは同時に、フランクリン・ルーズベルト大統領以来のリベラルな政策にストップをかけ、また保守的な白人中間層に働きかけることで、長年民主党の地盤だったアメリカ南部を共和党の地盤に転換させた戦略家でもあった。ニクソンは、人種対立をあおる今のトランプ大統領につながる源流なのだ。

 今回取り上げる『ニクソンのアメリカ』の著者松尾文夫は、1960年代から80年代にかけて活躍した共同通信の特派員である。松尾はニクソンが当選した1968年の大統領選を担当し、そのリポートを踏まえて1972年に上梓したのが同書である。

 ジャーナリストの仕事は、しばしば歴史の最初の草稿を書くことだと言われる。優れた現場報告は、後の歴史家たちにとって重要な素材を提供する。だが、まれにそのリポート自体が、読み返すに値する作品として残る。『ニクソンのアメリカ』はそういう特派員報告のひとつである。

 ニクソンとトランプ。半世紀を隔てた2人の大統領の共通点を読み解くカギは、ニクソンが展開した「南部戦略」にあった。

拡大ベトナム戦争などへの反戦運動でリンカーン記念堂前に集まった学生らと対話を試みるニクソン大統領(左から3人目)=1970年5月9日 、ワシントン


筆者

三浦俊章

三浦俊章(みうら・としあき) ジャーナリスト

元朝日新聞記者。ワシントン特派員、テレビ朝日系列「報道ステーション」コメンテーター、日曜版GLOBE編集長、編集委員などを歴任。2022年に退社

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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