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米政治の底流の変化を描いた『ニクソンのアメリカ』(松尾文夫)

ニクソンとトランプ。半世紀を隔てた2人のアメリカ大統領の共通点とは

三浦俊章 朝日新聞編集委員

共和党は白人党でいく ニクソンの南部戦略

 アメリカ南部を訪れる人は、ワシントンやニューヨークなど、日本人におなじみのアメリカとはまったく違う風土に驚くだろう。照りつける太陽、ゆったりとした南部なまりの英語、南北戦争以前の過去と伝統への強いあこがれ。それは歴史の所産である。

 奴隷制に基づくプランテーション農業で繁栄し、貴族的な白人支配階級が存続した南部は、工業地帯の北部とまったく異なった発展をしてきた。南北戦争後もその地域差は残った。独特の社会体制と文化を持つこの南部をどのように政治的に攻略していくかは、歴代のアメリカ大統領にとって大きな課題だった。

 ニクソン大統領以前、南部では共和党は忌み嫌われる存在だった。南部人にとって共和党とは、何よりも奴隷を解放したリンカーンの党だったからだ。

 南北戦争後も、白人支配層は実質的に残った。南部政治を支配した民主党は、隔離政策を維持し、黒人の政治参加を拒み続けた。北部で大都市貧困層やマイノリティーの味方だった民主党は、南部では全く別の顔を持っていたのだ。

 だが、1960年代にその民主党のケネディ、ジョンソン両政権下で黒人差別を是正する公民権法の制定が進められると、南部における民主党の支配は大きく揺らぎ始めた。そこにくさびを打ち込んだのがニクソンだった。

拡大『ニクソンのアメリカ』の著者、ジャーナリストの松尾文夫さん=2016年4月18日、仙波理撮影)
 『ニクソンのアメリカ』(松尾文夫)で著者は、まるまる1章を割いてニクソンの「南部戦略」を論じている。ニクソンの1968年の大統領選をカバーし、その後のニクソン政治を追い続けた松尾は、「南部戦略」をこう解説する。

 第2次世界大戦後、安価な労働力が豊富だった南部は、軍需産業を中心に飛躍的に発展する。それとともに北部から白人の中産階級が南部へ大移動した。この白人人口の増加は、アメリカ全体における南部の政治的発言力の向上を意味した。この新しい南部をつかむために何が必要なのかをニクソンは考えた。

 黒人のほとんどは公民権法を推進する民主党に投票する。「共和党は白人党でいく、民主党は黒人党になればいい――というのがそもそもの発想である」(岩波現代文庫版、154頁)と松尾は「南部戦略」を喝破する。アメリカでの黒人差別の根は深いが、これだけはっきり一線を引いたのは珍しいことだった、と著者は断じる。

 ここまで読んできて、いかがだろうか。まるで現在のトランプ大統領の本音を聞いているようではないか。トランプ氏が白人至上主義者の暴力を非難することを極力避けようとし、白人警官の暴力で亡くなった黒人のジョージ・フロイドさんへの追悼の言葉を惜しむ姿に、かつてのニクソンが重なって見える。

 だが、この戦術は21世紀にも通用するのだろうか。

拡大ホワイトハウス周辺での黒人死亡事件抗議デモ=2020年6月3日、ランハム裕子撮影

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筆者

三浦俊章

三浦俊章(みうら・としあき) 朝日新聞編集委員

朝日新聞ワシントン特派員、テレビ朝日系列「報道ステーション」コメンテーター、日曜版GLOBE編集長などを経て、2014年から現職。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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