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『日本の最終講義』――閉じた瞬間から23人の「声」がこだまする本

松澤 隆 編集者

「1冊」にまとめ上げられた魅力

 本書の購入を三省堂書店店頭で即決したのは、23人の顔ぶれと共に1冊の本として醸し出す「つくり」に惹かれたからだ。掌中の(懐旧の意味だけでない)「なつかしさ」は、読了した今も左右の手と目が憶えていて、ふと採り上げてしまう。既読の文章に再び誘われてしまう。あたかも優れたアレンジで構成されたトリビュート・アルバムのほうが、そのオリジナル・アーティストの初出ディスクや、オリジナル・サウンドトラック盤で愉しむより愛聴に値する場合が(も)あるように。

750ページを超える充実度を支える力強く端正な背。独創的で存在感のある装丁を担当したのは、大原由衣氏=筆者撮影
拡大独創的で存在感のある装丁を担当したのは、大原由衣氏。750ページを超える充実度を支える力強く端正な背=筆者撮影
 つまり、最初に文字起こしした段階、初出で編集した段階で手が加わっていたとしても、今回こうして大林さんが熟慮して選び、まとめ上げた配列、装丁と造本の魅力は、23篇の「講義」の個々の由来や、底本の書誌的な意義とは別な次元で、実に尊い。

 4月に亡くなったハル・ウィルナーは、「アマルコルド」以降も「セロニアス・モンクに捧ぐ」(1984)、「星空に迷い込んだ男:クルト・ワイルの世界」(1985)、「眠らないで:不朽のディズニー名作映画音楽」(1988)など、優れたトリビュート・アルバムをプロデュースした。

 個別のアレンジ、登場するアーティストの人気の点では「アマルコルド」のいくつかを上回るかもしれない。しかし、アルバムが総体として奏でる(懐旧の意味だけでない)「なつかしさ」において、後続の名盤は、「アマルコルド」ほどは(自分の)心をふるわせない。

 なお「アマルコルド」とは、監督フェデリコ・フェリーニの故郷、北イタリアの言葉で「私はおぼえている」という意味だという。……そう、我々はおぼえている。(美声だけでなく)様々な「声」が、遠くて近い「講義」という場所から、聞こえてくる。

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筆者

松澤 隆

松澤 隆(まつざわ・たかし) 編集者

みすず書房で出版営業、表現研究所(現・小学館クリエイティブ)で編集全般、春秋社で書籍編集に従事し、その後フリー。企画・編集した主な書籍は、佐治晴夫『からだは星からできている』『14歳のための時間論』、小山慶太『星はまたたき物語は始まる』、鎌田浩毅『マグマという名の煩悩』、立川談志『世間はやかん』など(以上すべて春秋社刊)。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです