現実の世界と心の世界、二つの「取り合わせ」が新しい世界を開く
2020年07月12日
今回でこの連載は最終回になります。そこで、今回は「ツァラトゥストラの編集会議」の最終回についてお話しします。
世界の名著を紹介する4コママンガ「ツァラトゥストラの編集会議」は、2018年6月から始まり、本年5月30日、202回目をもって終了しました。最終回で取り上げた名著は、生物学の古典、ユクスキュルとクリサートの「生物から見た世界」です。
ユクスキュルはこの本の中で、「ダニも人間も同じ地球に生きているが、ダニの生きている世界と人間の生きている世界は違う。すべての生物がそれぞれ独自の世界に生きている。そのような世界を環世界という」とし、ダニの環世界、ハエの環世界、犬の環世界などを紹介しているのですが、4コママンガの「生物から見た世界」でも、猫と人間の環世界を描いています。1コマ目と4コマ目を比べてみてください。
「生物から見た世界」の1コマ目
「生物から見た世界」の4コマ目
どちらのコマにも子分猫とバンド仲間のジョンがいますが、1コマ目は猫の環世界、4コマ目は人間の環世界です。猫が見ている猫と人間が見ている猫では全然違うということです。
このように、私たちは生物学の理論もドラマ作りに活用しているのですが、それはともかく、マンガの内容を見てみましょう。
なんと、猫の親分の本が売れに売れています。この2年間、親分はいつもみかん箱のデスクに向かって執筆に勤しんでいましたが、ついにベストセラー作家になったのです。
「ツァラトゥストラの編集会議」のタイトルページには次のリード文があります。
「ベストセラーを出して起死回生!」を狙う中小出版社「ツァラトゥストラ出版」の面々と「ベストセラーを出せば人生が変わる!」と信じる関係者が、名著や古典をテーマに様々な悲喜劇を繰り広げます。
ここにある通り、このマンガのスローガンは「目指せ、ベストセラー!」です。だから、「最後の最後はベストセラー」と初めから決めていました。ほのぼの路線の4コママンガですから、ハッピーエンドにしようと思ったのです。
また、ベストセラーになる作品も決まっていました。下のコマは連載の第1回目「吾輩は猫である」の3コマ目です。
「吾輩は猫である」の3コマ目
「吾輩は本物の猫である」は、連載の第1回目に登場していたのです。2年前のこの回を覚えていた方は、「あの原稿が…」と思ったことでしょう。
というわけで、「吾輩は本物の猫である」がベストセラー作品になることも初めから決まっていたわけですが、「本当にこれで大丈夫なのか」という不安もありました。「猫の書いた小説が人間社会で出版される」ということに、私自身、リアリティがもてなかったのです。
ようするに、その部分は詰めないで、「そのうち何か思いつくだろう」と見切り発車したわけですが、「絶対に何か思いつく」という保証などありません。それで、「ちゃんとまとまるのだろうか」「どこかで破綻するんじゃないのか」とビクビクしながら連載を続けていたのですが、編集ロボットのエディ君の登場によって、この問題は解決しました。
エディ君が登場したのは連載69回目「きまぐれロボット」の回です。
「きまぐれロボット」の1コマ目
私はこの「論座」の連載の9回目で、「どんな登場人物にも、その人が登場しなければならない理由があります。」と書いていますが、エディ君の登場にも理由があり
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください