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西洋音楽ではご法度! 韓国伝統音楽は「奏者の意思でテンポを変える」

「音楽はその場、その時で変わるのです」

ミン・ヨンチ ミュージシャン 韓国伝統音楽家

 何回かにかけて、韓国伝統音楽の特色について説明させていただいております。意外にといえばなんですが、結構評判がよく、もっと続けてほしいというお声が沢山ありますのでもう少し続けたいと思います。

 今回は、韓国のリズムと西洋のリズムの比較をしてみます。

ニューヨーク、ブルックリン。即興ジャズの名家、ルーレットにて、ニューヨーク在住のジャズ名プレーヤー達との共演。

韓国伝統音楽にメトロノームの概念はなかった

 最初に、結論から言いますが、音楽には世界各国に、たくさんのジャンルがあります。皆さんが知っている、西洋のクラシックが基礎になっている音楽(ピアノ音程メイン)は、実はその中の1つに過ぎないのです。

 例えば、料理で言うと、西洋の音楽は、パスタやピザや、ヨーロッパ料理。韓国の音楽は、ビビンバやチゲかな。日本伝統音楽は、お寿司、お味噌汁。

 そこにほかの国の音楽が、何かの流れによって入ってきたんです。

 ピアノやバイオリン、クラシックや軽音楽。すなわちハンバーガーやステーキ、パスタやピザ!!

 んーー!! おいしいですよね!!

 日本はここからまた、自国で研究を重ね形も変えて、元の国よりも負けないくらいおいしく作ってしまいます。

 すごい!! ラーメンとかカレーもね。(これってほかの国にはあまりないこと)。

 メトロノーム。ご存知ですよね。一定の拍子の速さを示してくれる機械。

 これなのです、一言でいうと。西洋音楽のリズムの特徴です。

rarrarorro/Shutterstock.com

 BPM(音楽においてBPMはBeats Per Minuteを意味する。直訳では「分毎の拍」)ともいいます。人間の脈と一緒です。1分間に何拍あるかで、拍子の速さを決めます。♩=60は「1分間に60拍あります」という意なのでBPM60です。

 しかし、およその韓国伝統音楽にはメトロノームの概念はなかったのです。

 では、どう決めていたか、それは、口伝や実演で、この曲は、速くとか、軽快にとか、ゆっくりと、余裕をもって、みたいに伝わり、あとはその記憶と、その場のノリで、演奏しているのです。もちろん昔から楽譜があった音楽は別ですが、特に民俗音楽はそうだったのです。

 「その場のノリ」が、かなり重要だったのです。

奏者の意思でテンポを変える

 その場というのが、今みたいにカラオケボックスとかそういうものはなかったので、特にお祭りや、冠婚葬祭が多かったのです。

 お祭りなどは、テンションも上がっておりますし、お葬式の時は、悲しいですよね。

 テンションの上がる音楽はもちろん速め、悲しい音楽はゆっくりと。

 そうなります。けど、ここからが今回の真骨頂。

 韓国の伝統音楽は、曲の途中でもその場が興奮してくると、奏者達が、BPMを上げたり、悲しくなるとBPMを下げたりします。

 ここが、西洋のリズム概念といちばん違うところです。

オーケストラとチャング。

 西洋音楽はBPMを決めていると、その途中で速くなったり遅くなったりは、ご法度です。ありえないのです。

 皆さんが知っている、POPSやロック、バラードでは、途中で奏者の意向で速くなったり、遅くなったりする曲はないですよね。クィーンのボヘミアンラブソティーみたいな曲は別ですよ。これは作曲時点から、遅いテンポ、中間のテンポ。速いテンポで、分けて作っていますから。クラシックにもありますが、これらは、作曲家の意思で決められています。

 そうではなく、奏者の意思でテンポを変えるのが、韓国伝統音楽の醍醐味なのです。

喜納昌吉「音楽はその場、その時で変わるのです」

 沖縄の歌手、喜納昌吉さんとご一緒したことがあった。

 彼のバンド、チャンプルーズも音楽が興奮していくと、速くなったりした。

 私も負けずに、チャングでセッション。楽しかった!!

ライブで熱唱する喜納昌吉さん=2011年6月20日、沖縄市

 ライブ終わって、喜納さんに、私が、「リズムがその場その場で揺れるので気持ちいいです!」っていったら、喜納さんが、「当たり前です。音楽はその場、その時で変わるのです」って。カッコいいーー!!

 ところが、昨今のおよその音楽業界では、途中でテンポが揺れるのは、絶対ダメ。もしそうするのであれば、下手くそに思われます。

 前回『強敵の韓国楽器「テグム」の音色を、とくとお聞きあれ!』で説明した、鍵盤にない音程クオーター音程なんかをもし出してしまうと、下手くそと思われ、けちょんけちょんに言われます。

 西欧の音楽は、何百年もかけて研究された、科学的によくできた音楽です。

 けど世界には、そうでない音楽、ピアノの音程に合わない、BPMに合わない、音楽が沢山あります。

 芸術には正解はありません!

 大事なのは、お互いをリスペクトし、たまには喧嘩もしながら、一緒に楽しむ、ということだと思います。

音楽がある限り……

 外国の音楽とご一緒する機会もたくさんあり、小さな時から、西洋音楽と韓国伝統音楽を並行していた私には、この両方の音が一緒に聞こえます。

 ステーキを食べながら、チゲとワインとマッコリで、食べられるのです。

 そんな音楽活動を続けていきたいと思っている次第であります。

 言ってみれば、どこにもないプルコギビビンババーガーを作っているんです。

 今日はここまで。

 P.S.

 コロナの影響で、一緒に会えないミュージシャンたちと、こうやって会って一緒に演奏してみました。