祝ウディ・アレン復活! 『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』
肩の力を抜いたラブコメの佳品
藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師
男女のすれ違いや運命的な出会いを描く「王道」
舞台はアレンの偏愛する本拠地ニューヨーク。アレンの分身ともいうべき、生粋のニューヨーカーである主人公のギャツビー(ティモシー・シャラメ)は、裕福で文化的ステータスに固執するスノッブな両親の過大な期待にうんざりしている、ちょっとばかり屈折した芸術好きの、しかし未(いま)だ何者でもないモラトリアム大学生。
ファッションには無頓着だが、アレン好みのラルフローレンの茶のへリンボーン(杉綾)のジャケットにチノパンツ、というスタイルだ。なお<スノッブ>とは、見栄っ張りで上品ぶった成金などに多い、肩書や物欲に支配され、自分より上位の肩書や財産を持つ者には卑屈になり、持たぬ者を軽蔑する俗物のことで、ギャツビーの両親はその典型だが、むろんギャツビー自身も“ねじれスノッブ”である(アレンの作品ではしばしば、こうした“スノッブをくさすスノッブ”をアレン自身が自虐的に演じているが、そうした人物像は、多少なりとも私たち自身が抱いているスノビズムを、イタ気持ちよく刺激する)。

ギャツビー(ティモシー・シャラメ) Photography by Jessica Miglio ©2019 Gravier Productions, Inc.
物語は男女のすれ違いや運命的な出会いを描く定番の恋愛喜劇だが、やたらに深刻めかした“社会派映画”やら、カタツムリのように緩慢に進行するアート系スローシネマ(?)やら、幼児的退行としか思えないアメコミ映画やらが幅を利かす状況のなかで、本作のようなラブコメの王道を行く作品の存在は
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