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「ここで終わりにしようか」

 金子の旅と沢木の旅を比べることは止めておこう。金子の3部作が高い世評を得たのは事実だが、沢木はその作風にさほど感興をそそられたわけでもなさそうだ。ただ彼は自身の旅を振り返って、「汐どき」という言葉に出会い、そこに解を求めただけのように見える。

 先のエッセイは『西ひがし』の引用に続いて、沢木がイベリア半島西南端、ポルトガルのサグレスを訪ねた時の顛末を述べている。旅の終了をずるずると引き伸ばしてきた沢木は、この岬の宿で簡素な朝食を摂りながら、北大西洋を見下ろして「ここで終わりにしようか」とつぶやく。

しばらくして、日本というユーラシアの東端の島から始めた旅を、この名も知らぬような西端の岬で終えるのも悪くない、という理屈を見つけ出した。しかし、理屈の当否はどうでもよかったのだ。私は、ようやく見つけた「汐どき」を、必死でのがすまいとしていただけなのだ。私は自分を励ますために、さて帰るとするか、と自分に呟いてみせた。(前掲書)

 Carina 70拡大ポルトガル・サグレスの岬 Carina 70/Shutterstock.com

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筆者

菊地史彦

菊地史彦(きくち・ふみひこ) ケイズワーク代表取締役、東京経済大学大学院(コミュニケーション研究科)講師

1952年、東京生まれ。76年、慶應義塾大学文学部卒業。同年、筑摩書房入社。89年、同社を退社。編集工学研究所などを経て、99年、ケイズワークを設立。企業の組織・コミュニケーション課題などのコンサルティングを行なうとともに、戦後史を中心に、<社会意識>の変容を考察している。現在、株式会社ケイズワーク代表取締役、東京経済大学大学院(コミュニケーション研究科)講師、国際大学グローバル・コミュニケーションセンター客員研究員。著書に『「若者」の時代』(トランスビュー、2015)、『「幸せ」の戦後史』(トランスビュー、2013)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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