2020年07月24日
反ナチス映画34本(!)が、東京のシネマヴェーラ渋谷で上映される(「ナチスと映画Ⅲ 忍び寄る全体主義の恐怖」7月25日~8月28日)。シネマヴェーラならではの刮目(かつもく)すべき特集だが、ラインナップは1930~40年代のハリウッドで数多く撮られた対独(反ナチス)プロパガンダ娯楽映画のみならず、ルネ・クレール監督(仏)のナチス・ドイツを徹底的に笑いのめした政治風刺喜劇の名作、『最後の億萬長者』(1934)、キャロル・リード監督(英)の『ミュンヘンへの夜行列車』(1940)、マイケル・パウエル監督(英)の『潜水艦轟沈(ごうちん)す』(1941)、ヨハン・ヤコブセン監督(デンマーク)の『姿なき軍隊』(1945)、そしてイタリア・ネオレアリズモの傑作、ロベルト・ロッセリーニ監督の『無防備都市』(1945)、『ドイツ零年』(1948)、さらにソ連映画『鬼戦車T-34』(ニキータ・クリーヒン/レオニード・メナケル(共同)監督、1965)、『炎628』(エレム・クリモフ監督、1985、今回唯一のカラー作品)などなど、めくるめく多彩な演目である。
すべてが必見作であるが、以下では、私がDVD、および動画サイトで再見できた作品について、短くコメントしたい(演目中には未DVD化の作品もあり)。
■『死刑執行人もまた死す』(フリッツ・ラング監督、1943)
本特集最大の目玉作品の1本であり、アメリカ時代のラング――ドイツから1934年に仏経由で渡米――の最高傑作の1本だが、ドイツ占領下のチェコスロバキアのプラハを舞台に、“死刑執行人”の異名を持つナチス司令官ハイドリッヒ暗殺をめぐる、ナチスvsレジスタンスの苛烈な闘いが展開される。ハイドリッヒ暗殺の報復としてナチスが市民を無差別に処刑していくなか、暗殺犯ブライアン・ドンレヴィは名乗り出ることなくアンナ・リーのヒロイン一家にかくまわれ、次なる任務を遂行しようとする(終始、ポーカーフェイスを貫くドンレヴィのハードボイルドな演技も見事)。その、安易な感情移入を許さない極限状況が、一切のヒロイズムや感傷を抜きに、ひたすら冷徹非情に描かれる。
またTHE ENDのあとに映るNOTには、この映画が撮られたのがナチスとの戦いの真っ只中である、というリアルタイム性が刻印されている(今回上映される、そのほか3本のラング作品については後述)。
ちなみに本特集で上映される、メロドラマの巨匠ダグラス・サーク監督の、同じくハイドリッヒ暗殺をテーマにした逸品、『ヒトラーの狂人』(1943)も見逃せない。
1942年の北アフリカ戦線での連合軍とドイツ軍の対決を描いた、“戦車映画”の逸品。本体とはぐれた3人の米兵が乗るのはM中戦車「ルル・ベル」だが、戦闘シーンには力点が置かれず、水をめぐる両軍の駆け引きや、戦車隊に加わる英、仏、南アの兵士ら、イタリア軍の捕虜、そしてヒトラー崇拝者で金髪のドイツ軍捕虜が引き起こす人間模様、サスペンスがドラマを牽引する。戦車長に扮するはハンフリー・ボガート。連合軍戦車部隊9人がドイツ軍900人に対決するラストでの“奇跡”も凄い。また、砂丘に刻まれた兵士の影や風紋を撮りおさえる、名手ルドルフ・マテのカメラが超絶。
■『鬼戦車T-34』(ニキータ・クリーヒン/レオニード・メナケル監督、1965)
1942年、ナチス収容所のソ連軍捕虜たちが、押収中の自軍の名戦車T-34を奪取して脱走する凄まじい“戦車映画”。T-34がナチスのプロパガンダ記録映画を上映している映画館に突入、
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