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Go To 反ナチス映画! 傑作『死刑執行人もまた死す』など渋谷で大特集

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

 反ナチス映画34本(!)が、東京のシネマヴェーラ渋谷で上映される(「ナチスと映画Ⅲ 忍び寄る全体主義の恐怖」7月25日~8月28日)。シネマヴェーラならではの刮目(かつもく)すべき特集だが、ラインナップは1930~40年代のハリウッドで数多く撮られた対独(反ナチス)プロパガンダ娯楽映画のみならず、ルネ・クレール監督(仏)のナチス・ドイツを徹底的に笑いのめした政治風刺喜劇の名作、『最後の億萬長者』(1934)、キャロル・リード監督(英)の『ミュンヘンへの夜行列車』(1940)、マイケル・パウエル監督(英)の『潜水艦轟沈(ごうちん)す』(1941)、ヨハン・ヤコブセン監督(デンマーク)の『姿なき軍隊』(1945)、そしてイタリア・ネオレアリズモの傑作、ロベルト・ロッセリーニ監督の『無防備都市』(1945)、『ドイツ零年』(1948)、さらにソ連映画『鬼戦車T-34』(ニキータ・クリーヒン/レオニード・メナケル(共同)監督、1965)、『炎628』(エレム・クリモフ監督、1985、今回唯一のカラー作品)などなど、めくるめく多彩な演目である。

 すべてが必見作であるが、以下では、私がDVD、および動画サイトで再見できた作品について、短くコメントしたい(演目中には未DVD化の作品もあり)。

Everett Collectionshutterstock拡大1933年、ドイツのニュルンベルクで Everett Collection/Shutterstock.com

■『死刑執行人もまた死す』(フリッツ・ラング監督、1943)
 本特集最大の目玉作品の1本であり、アメリカ時代のラング――ドイツから1934年に仏経由で渡米――の最高傑作の1本だが、ドイツ占領下のチェコスロバキアのプラハを舞台に、“死刑執行人”の異名を持つナチス司令官ハイドリッヒ暗殺をめぐる、ナチスvsレジスタンスの苛烈な闘いが展開される。ハイドリッヒ暗殺の報復としてナチスが市民を無差別に処刑していくなか、暗殺犯ブライアン・ドンレヴィは名乗り出ることなくアンナ・リーのヒロイン一家にかくまわれ、次なる任務を遂行しようとする(終始、ポーカーフェイスを貫くドンレヴィのハードボイルドな演技も見事)。その、安易な感情移入を許さない極限状況が、一切のヒロイズムや感傷を抜きに、ひたすら冷徹非情に描かれる。

『死刑執行人もまた死す』(フリッツ・ラング監督)のDVD拡大『死刑執行人もまた死す』(フリッツ・ラング監督)のDVD
 ラングならではの表現主義的な光と影のハイコントラスト、扉や窓で視界を区切る鋭利な空間設計も、また一分の隙もないプロットも、これ以上は望めない素晴らしさだが、加えて、残忍なゲシュタポの警部がドンレヴィらに消される場面の省略技法――書類の束で圧殺された警部の両足が、机の上からだらりと垂れ下がったところをロー・アングルで短く撮る!――にも、ナチスと内通する小太りのジーン・ロックハートが、市民らの仕掛けた周到な罠に落ちるシーンにも、痛快さやカタルシスはみじんもなく、おぞましさのみが際立ち、<悪>を描くラングの天才に唸らされる(撮影は名手、ジェームズ・ウォン・ハウ)。

 またTHE ENDのあとに映るNOTには、この映画が撮られたのがナチスとの戦いの真っ只中である、というリアルタイム性が刻印されている(今回上映される、そのほか3本のラング作品については後述)。

 ちなみに本特集で上映される、メロドラマの巨匠ダグラス・サーク監督の、同じくハイドリッヒ暗殺をテーマにした逸品、『ヒトラーの狂人』(1943)も見逃せない。

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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

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