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「異世界×エロ」がギャグに! 漫画家・猪熊しのぶ氏に訊く「生き残り術」

井上威朗 編集者

 「異世界モノ」の人気が止まりません。

 中世ヨーロッパ風のたてつけで、魔物や魔法が存在するファンタジー的世界をざっくり「異世界」と呼び、そこに現代日本の知識を持ったまま転移したり、すごい特殊能力を持って転生したりする物語のことを指すようです。異世界に持ち込まれる知識や能力を「チート」と呼ぶのも特徴です。

 私もいい歳こいてあっさりハマり、スマホでけっこうな量を読んでしまいました。さらにコミカライズ化されたものまで次々と購読し、中年オタクぶりを発揮させていただいている昨今です。

 名著や出版界の話題を紹介していく本コーナー「神保町の匠」でも、私はこの「異世界モノ」を扱いたいなあと願っていたのですが、好タイトルが乱立する現状では1作に絞れず苦しんでおりました。

 そこに登場したのが、今回ご紹介するコミック『異世界ソープランド輝夜』(猪熊しのぶ、日本文芸社)であります。

 異世界モノのすばらしい企画力に感動しながら読むと、まあ面白いこと面白いこと。

 多くの「異世界モノ」では、チートというのは個人に属するものです。生まれながらの特殊能力や現代日本から持ってきた知識で、ズルすなわちチート行為をして大活躍するわけです。

 ところが本作は、そのチートが1軒のソープランド・輝夜(かぐや)という「場」に与えられています。剣を振るってドラゴンすら倒す勇者が、生まれてはじめてその「場」に入ってしまったら、どんなことになってしまうのか……。作者の猪熊しのぶ氏は、高い画力と演出力で、この顛末を正面から描きます。その結果、私の大好物が生まれてしまった次第です。

『異世界ソープランド輝夜 2』(猪熊しのぶ、日本文芸社)132ページより。ものすごいクオリティの作画で、尋常ならざる事態が起きていると一発で伝わるように描かれています拡大『異世界ソープランド輝夜 2』(猪熊しのぶ、日本文芸社)132ページより。ものすごいクオリティの作画で、尋常ならざる事態が起きていると一発で伝わるように描かれています

 この漫画、各自治体で有害図書と指定される基準はクリアしているようです。「卑わいな描写」は全体のごく一部です。作者はその場面も丁寧に描いていますが、ギャグの演出として解釈できるようになっています。というかギャグになっています。すごい……。そして一般コミック誌で『都立水商!』を人気連載として描き続け、職業としての性風俗業従事者のプライドを示してきた作者だけあって、本作でも性差別・職業差別を正当化する意図はどこにも見受けられません。

 「週刊少年サンデー」でデビューしてから25年を超えている大ベテラン作家の猪熊氏が、よくぞこのような「攻め」の傑作を描かれたことだ。すばらしい。これは事情を聞きに行かねば……!

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筆者

井上威朗

井上威朗(いのうえ・たけお) 編集者

1971年生まれ。講談社で漫画雑誌、Web雑誌、選書、ノンフィクション書籍などの編集を経て、現在は科学書を担当。