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コロナ禍の夏、渡辺えりが示す「女性の力」

連続企画「女々しき力 序章」に込めた思いは

山口宏子 朝日新聞記者

いまは亡き仲間たちとの「約束」

拡大如月小春
拡大岸田理生

 手間をかけ、経済的なリスクも背負いながら、渡辺が「女々しき力」を実現させようとしている背景には、今は亡き、ふたりの劇作家との「約束」がある。

 一人は如月小春(1956~2000)。大学生の頃から注目され、都会的なセンスの才能を多方面で発揮した華やかな人だった。

 同世代の渡辺は、若い頃、よく比較され、反発を感じていた時期もあった。しかし、じょじょに交流が深まり、「アジア女性演劇会議」(2001年)の準備などで頻繁に話すようになった。その中で「日本国内でも女性演劇人が集まる場を作ろう」と話し合っていた矢先、如月は急病で亡くなった。

 もう一人は、先輩の岸田理生(1946~2003)。アングラ演劇を代表する劇団「演劇実験室 天井桟敷」で、寺山修司と共同で劇作を担い、その後も社会や歴史を深く洞察する戯曲を数多く発表した。

 渡辺と如月の考えに共鳴し、下北沢の小劇場ザ・スズナリのロビーで会った時、「(小劇場系の演劇界で女性は)ずっと一人だったんだよ。あなたたちが出てきてくれて、どれだけ心強かったか分かる?」と言われたことを、渡辺は今もよく覚えている。だがほどなく岸田は難病に倒れ、闘病の末、世を去った。

 年下の女性たちの活躍が広がっている今こそ、ふたりとの約束を果たさねば、という思いが渡辺を動かしている。

拡大KAKUTA公演『ひとよ』のちらし
 渡辺が9月に客演する劇団KAKUTAの主宰者、桑原裕子(44)は、次世代を代表する一人だ。16年に上演した「痕跡」で第18回鶴屋南北戯曲賞を受賞。愛知県豊橋市の「穂の国とよはし芸術劇場PLAT」の芸術文化アドバイザーも務めている。

 上演する『ひとよ』は当初、「女々しき力」のトップバッターとして8月に公演する予定だったが、時期と会場を変更した。小さなタクシー会社を舞台に、罪を犯し、服役して戻ってきた母親を軸に、家族の崩壊と再生を描く。2011年に初演され、白石和彌監督で映画化もされた、KAKUTAの代表作の一つだ。渡辺は15年ぶりに家族のもとに現れ、波紋を広げる母親を演じる。

『ひとよ』
作・演出:桑原裕子

◎東京公演
会場:東京・下北沢の本多劇場
9月3~13日
チケット:5800円(一部公演5500円)、24歳以下3500円
問い合わせ:J-Stage Navi 03-5912-0840(平日11時~18時)

◎豊橋公演
会場:穂の国とよはし芸術劇場PLAT主ホール
10月3、4日
チケット:4000円、25歳以下2000円、高校生以下:1000円
問い合わせ:プラットチケットセンター 0532-39-3090  

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筆者

山口宏子

山口宏子(やまぐち・ひろこ) 朝日新聞記者

1983年朝日新聞社入社。東京、西部(福岡)、大阪の各本社で、演劇を中心に文化ニュース、批評などを担当。演劇担当の編集委員、文化・メディア担当の論説委員も。武蔵野美術大学非常勤講師。共著に『蜷川幸雄の仕事』(新潮社)。

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