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「民族共生象徴空間」(ウポポイ)になぜ慰霊施設があるのか

それは研究を名目とした墓あばきを免罪する

杉田聡 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)

 7月12日、アイヌに関わる「民族共生象徴空間(ウポポイ)」(以下便宜的に「公園」と略す。愛称ウポポイはアイヌ語で「(大勢で)歌い合う」意味だという)が開園した。北海道の空の玄関口・新千歳空港からそう遠くない白老(しらおい)町に、200億円もの経費をかけて造成された施設である。

「民族共生象徴空間」(ウポポイ)がオープンし、アイヌ古式舞踊が披露された=2020年7月12日、北海道白老町拡大「民族共生象徴空間」(ウポポイ)がオープンし、アイヌ古式舞踊が披露された=2020年7月12日、北海道白老町

背景と現実

 公園開設の背景にあるのは、「先住民族の権利に関する国連宣言」(2007年)と、それを下になされた、アイヌ民族を「先住民族」と認めるよう求める国会決議(2008年)である。後者をふまえて設置された「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」の報告書(2009年)が、「民族共生の象徴となる空間の整備」を提言したことから(報告書33-4頁)、同公園の開設にいたった。

 ただし国連宣言の精神は、国会決議・懇談会報告書を通じて骨抜きにされた。同公園は国連宣言とは縁遠い施設にすぎない。アイヌとの現実の共生――和人の側が設定した共生ではなくアイヌの要求に基づくそれ――を実現せず、「象徴」施設のみを造ってよしとする日本政府のやり方は、国際的に通用しない。


「ウポポイ」の体験交流ホール(左手前)、エントランス棟(右手前)、国立アイヌ民族博物館(右奥)=2020年6月22日、北海道白老町拡大「民族共生象徴空間」(ウポポイ)の体験交流ホール(左手前)、エントランス棟(右手前)、国立アイヌ民族博物館(右奥)

私がえた感触と本質的な問題性

 もちろんこう言って一蹴するのは早計である。開園後、私は公園を見学することにした。

 園内では、興味深いことにアイヌ語が「共通語」であり、各種掲示は――手洗い内の注意書きから花壇の植物名まで――まずアイヌ語で記されている。職員はアイヌ語の愛称を持っており、それで互いを呼び合う。職員にはアイヌも多く、「私たちアイヌは」と自己紹介する。しかも同公園は、以上の経緯に見るように国立である。

 これらの事実を通じ、アイヌは自らと自らの文化に誇りをもち、それがアイデンティティのよりどころとなりうるのではないか、また和人は、アイヌを差別・排除してきた意識下の偏見を見直し、みずからの差別・排除の姿勢を変えうるのではないか――同公園を見学しつつ、私はそうした感触をえた。

 だが、やはり問題がある。アイヌが己の文化や己自身に誇りが持てないできたのは、和人政府による非人道的な同化政策の結果だったのに、その根本的な事実がここからはほとんど見えてこないからである。

 この点を、1、公園に隣接する高台に併設された広大な「慰霊施設」と、2、公園内に設置された「国立アイヌ民族博物館」の歴史展示に即して、2回にわたって論ずる。

 なお、一般にアイヌ民族をさす場合、以下に見るように「アイヌの人々」と書かれることが多いが、本稿では、「人間」しかも「誇りある人間」という、「アイヌ」という呼称がもつそれ自体誇りある語義をふまえ、単に「アイヌ」と記す。

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筆者

杉田聡

杉田聡(すぎた・さとし) 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)

1953年生まれ。帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)。著書に、『福沢諭吉と帝国主義イデオロギー』(花伝社)、『逃げられない性犯罪被害者——無謀な最高裁判決』(編著、青弓社)、『レイプの政治学——レイプ神話と「性=人格原則」』(明石書店)、『AV神話——アダルトビデオをまねてはいけない』(大月書店)、『男権主義的セクシュアリティ——ポルノ・買売春擁護論批判』(青木書店)、『天は人の下に人を造る——「福沢諭吉神話」を超えて』(インパクト出版会)、『カント哲学と現代——疎外・啓蒙・正義・環境・ジェンダー』(行路社)、『「3・11」後の技術と人間——技術的理性への問い』(世界思想社)、『「買い物難民」をなくせ!——消える商店街、孤立する高齢者』(中公新書ラクレ)、など。

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