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【公演評】宙組『FLYING SAPA -フライング サパ-』

秩序と混沌の星で過去を消された兵士が見たものは――真風涼帆がSFの世界に挑む

さかせがわ猫丸 フリーライター


 宙組公演『FLYING SAPA -フライング サパ-』が、梅田芸術劇場で8月1日、初日を迎えました(11日まで。9月6日~15日/東京・日生劇場)。

 本来は3月30日から赤坂ACTシアターで東京でのみ上演される予定でしたが、新型コロナの影響で約4か月遅れの上演です。席数は半減ですが、新たに大阪公演が追加され、LIVE配信とともに、広くお客様に楽しんでいただけるようになりました。

 主演は宙組トップスターとして充実期を迎える真風涼帆さん。今回は、都会的で憂いある真風さんの持ち味が活きる、本格的SF作品に挑戦です。演出は、宝塚に新しい風を吹き込む上田久美子さんが、歌やダンスがほとんどないストレートプレイで、また新たな世界観を作り出しました。

 音楽には世界的アーティスト三宅純氏を迎え、お客様を異次元空間へといざないます。(以下、ネタバレがあります)

けだるさも魅力な真風

拡大『FLYING SAPA -フライング サパ-』公演から、オバク役の真風涼帆=岸隆子 撮影

 地球以外で暮らすSFの世界は、子どもの頃、誰でも一度は夢見たことがあるのではないでしょうか。あふれる星の光、メタリックな装置とスタイリッシュな衣装、小さな機械一つで快適に生きられる…そんなワクワクさせられる設定が、宝塚にもやってきました。

 ――ここは遠い未来の水星(ポルンカ)。世界大戦で滅びゆく地球を脱出した人々が、総統01ミレンコ・ブコビッチ(汝鳥伶)のもと、人種や言語、宗教などを超え、平和に暮らしていた。腕に光る生命維持デバイス「へその緒」のおかげで、地球と同じように生活でき、食事をとる必要もない。ただし活動のすべては政府のデータベース「ミンナ」で把握されていた。危険分子は摘発され、思想と記憶を漂白後、政府側の兵士として雇い入れられる。30011ことオバク(真風)もその一人だ。記憶は兵士になった4年分しかない。ある日、オバクは「へその緒」を自ら破壊しようとする女を察知。指令に従い、保護に向かうのだが……。

 不自然な秩序が保たれ、皆がテキパキ動くポルンカに、真風さんのけだるい声が響き渡ります。オバクは、ただただ疲れていました。自分が誰かもわからないまま、人の意識に入り込み、悪い思想と記憶を操作する虚しさ。2112時間、88日周期で続く夜にも、うんざりしていました。そんな生きる目的を持たない、無気力な男なのに、やけに魅力的に見えてしまう。白いロングコートや素朴なセーターを無造作に着こなし、ただ寝ころがっているだけの男らしいシルエットにもしびれずにいられない。けだるささえ色気に変えられるのは、真風さんならではと言えるでしょう。

 最初は情報量が多く、集中して聞かなければと身を引き締めてしまいますが、これらの基本さえ押さえておけば、まず大丈夫かと思われます。長い説明セリフもありますが、無理のない言葉選びと役者の技術で無理なく理解でき、緊張感は最後まで切れることがありません。

組替え紫藤が新鮮な風を運ぶ

拡大『FLYING SAPA -フライング サパ-』公演から、スポークスパーソン101役の紫藤りゅう=岸隆子 撮影

 ――ポルンカでは「違い」をなくすことで、絶対的平和が保たれていた。すべては総統01のおかげだ。4Dテレビではスポークスパーソン101(紫藤りゅう)が、総統01が娘を後継者に指名したことを報道し、人々は熱狂していた。そんな中、オバクが会った自殺志願の女02(星風まどか)は、なんと総統の娘ミレナだった。すべてに投げやりな彼女は、この星で唯一、総統の支配が及ばないクレーターSAPAへ連れて行けと言う。やがてSAPAにたどり着いたミレナとオバク、彼のサポーター・タルコフ(寿つかさ)は、少年ズーピン(優希しおん)にホテルへ案内されるが、そこは荒くれ者たちが巣食う非文明的な違法社会だった。

 ポルンカを完璧に支配する総統は、カリスマと狂気の表裏一体がにじみます。演じる専科の汝鳥さんは、この作品のど真ん中で核のごとく存在するのに、ふさわしい重鎮でしょう。若き日のブコビッチ役・穂稀せりさんが、地球からポルンカへ至る経緯を説得力たっぷりに演じていたのも、不気味さの効果を高めていました。

 総統府の報道官101を演じるのは、組替えで星組から来た紫藤さんです。さわやかな貴公子キャラが宙組では新鮮で、まぶしいほど。スマートなスタイルも自然に溶け込んで、意外と宙組カラーが似合っているかもしれません。

 新人兵士タオカの留依蒔世さんは実力派らしく、爆発的な演技が迫力満点です。総統府の科学大臣98役の瑠風輝さんは、クールでインテリなたたずまいで、正反対の魅力を発揮していました。紫藤さんが新しい風を吹かせることで、宙組のホープたちも競い合って、ますます深みを増して行きそうです。

 ズーピンは自称戦場荒らし。どこかお調子者な少年を、優希さんは明るい持ち味で元気いっぱい演じています。ピンポイントでオバクたちの役に立ちますが、ちょっとしたカギを握るのが心憎い。

◆公演情報◆
『FLYING SAPA -フライング サパ-』
2020年8月1日(土)~8月11日(火) 梅田芸術劇場メインホール
2020年9月6日(日)~9月15日(火) 日生劇場
公式ホームページ
[スタッフ]
作・演出/上田 久美子

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筆者

さかせがわ猫丸

さかせがわ猫丸(さかせがわ・ねこまる) フリーライター

大阪府出身、兵庫県在住。全国紙の広告局に勤めた後、出産を機に退社。フリーランスとなり、ラジオ番組台本や、芸能・教育関係の新聞広告記事を担当。2009年4月からアサヒ・コム(朝日新聞デジタル)に「猫丸」名で宝塚歌劇の記事を執筆。ペンネームは、猫をこよなく愛することから。

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