三浦俊章(みうら・としあき) ジャーナリスト
元朝日新聞記者。ワシントン特派員、テレビ朝日系列「報道ステーション」コメンテーター、日曜版GLOBE編集長、編集委員などを歴任。2022年に退社
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
原爆投下をめぐる論争は終わらない。その原点となった衝撃のルポルタージュ
世界で初めて原爆を投下し、一般市民を虐殺したのはアメリカだったが、その惨禍を世界に広く伝え、原爆の非人道性を告発したのは、そのアメリカのジャーナリズムだった。原爆投下から75年、大国の核軍拡が止まらない今こそ、その最初の本格的ルポであるジョン・ハーシーの『ヒロシマ』(1946年8月発表)を再読してみよう。
アメリカの専門誌「原子力科学者会報」は1947年以来、人類の絶滅を午前0時として、どこまでそこに近づいているかを時計の針で示す「終末時計」を発表してきた。
米ソ冷戦の激しい時代は、針が2分前とか3分前を示すこともあった。冷戦が終わってソ連が崩壊した1991年には、針は17分前まで戻った。その時計が2020年現在、100秒前という史上最悪の状況を示している。
米ロの中距離核戦力全廃条約が失効するなど、核の拡散防止や軍縮の枠組みが揺らいでいる。中国が急速に核戦力を近代化し、米中の「新冷戦」がささやかれている。イランや北朝鮮などの核開発への歯止めも見えないからだ。
しかし、1980年代に米ソの核軍拡が加速し、世界終末時計が4分前や3分前を示したときは、西ヨーロッパを中心の広範囲の反核運動が盛り上がっていたのに、いま、核戦争への危機意識はかつてのような広がりはない。冷戦が核を使うことなく終結したことで、「核戦争が起こらないだろう」と油断しているのではないか。新型コロナへの警戒感ばかりが語られるが、その影で進む「終末への秒読み」に人々はあまりにも鈍感すぎる。
戦争の記憶がまだ生々しかった時代、人々は核兵器への畏怖、正しい恐れを持っていた。
それを最も的確に伝えるジョン・ハーシーの『ヒロシマ』をひも解いてみよう。