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敗戦から75年目の夏――現在に突き刺さる浮浪児・満州・沖縄

新たな戦前を拒否する礎

野上 暁 評論家・児童文学者

「鐘の鳴る丘」に出演した小学生の成長物語

 「浮浪児」といえば、占領下に大ヒットしたNHK連続ラジオドラマ「鐘の鳴る丘」を思い出す。古内一絵の『鐘を鳴らす子供たち』(小峰書店)は、「鐘の鳴る丘」に出演した素人の小学生たちの悪戦苦闘を、焼け跡闇市や戦災孤児の生き様を映し出しながら、それぞれの成長を実に躍動的に描いた小説だ。

「鐘の鳴る丘」は、当初は生放送だった。左から2人目が菊田一夫(1948年) NHKラジオ拡大ラジオドラマ「鐘の鳴る丘」の収録風景。左から2人目が菊田一夫=1948年、NHKラジオ提供

 東京大空襲で父親を失った少年が、NHKの米軍将校室に潜入し、アメリカ煙草の吸い殻を集めて闇市で売って病弱な母と妹の生活を支えたり、出演する子どもたちがスタッフとともに戦災孤児が収容されている施設を訪問し、ドラマの虚構性をしたたかに突かれるあたりにリアリティーがある。

古内一絵の『鐘を鳴らす子供たち』(小峰書店)拡大古内一絵『鐘を鳴らす子供たち』(小峰書店)
 作者の菊田一夫、作品中では菊井一夫の葬儀で、四半紀ぶりに中年となった出演者たちが集まった時、番組に関わった人たちの意外なその後が知らされる。

 朗読を指導した女性は、ヒロシマの原爆で被爆しその後遺症で亡くなっていた。闇市でシケモクを売っていた少年は、苦学して東大を卒業後、60年安保闘争の敗北後に姿を消す。新憲法施行の後に中学生向けに配布された「あたらしい憲法のはなし」の思いを胸に、今や中年となった主人公の少年は、戦後民主主義が風化していく中で、「あの頃、僕らが鳴らした鐘は、今、どこで響いているのだろう」と人知れずつぶやくあたりに今日的な危機感がにじみ出る。

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筆者

野上 暁

野上 暁(のがみ・あきら) 評論家・児童文学者

1943年生まれ。本名、上野明雄。小学館で子ども雑誌、児童図書、文芸書、学術書などの編集部門を担当。著書に『おもちゃと遊び』(現代書館)、『「子ども」というリアル』『日本児童文学の現代へ』(ぱろる舎)、『子ども学 その源流へ』(大月書店)、『越境する児童文学』(長崎書店)など。編著に『わたしが子どものころ戦争があった――児童文学者が語る現代史』(理論社)、『子どもの本ハンドブック』(三省堂)、『いま子どもに読ませたい本』(七つ森書館)など。日本児童文学学会会員。日本ペンクラブ常務理事。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです