「鐘の鳴る丘」に出演した小学生の成長物語
「浮浪児」といえば、占領下に大ヒットしたNHK連続ラジオドラマ「鐘の鳴る丘」を思い出す。古内一絵の『鐘を鳴らす子供たち』(小峰書店)は、「鐘の鳴る丘」に出演した素人の小学生たちの悪戦苦闘を、焼け跡闇市や戦災孤児の生き様を映し出しながら、それぞれの成長を実に躍動的に描いた小説だ。

ラジオドラマ「鐘の鳴る丘」の収録風景。左から2人目が菊田一夫=1948年、NHKラジオ提供
東京大空襲で父親を失った少年が、NHKの米軍将校室に潜入し、アメリカ煙草の吸い殻を集めて闇市で売って病弱な母と妹の生活を支えたり、出演する子どもたちがスタッフとともに戦災孤児が収容されている施設を訪問し、ドラマの虚構性をしたたかに突かれるあたりにリアリティーがある。

古内一絵『鐘を鳴らす子供たち』(小峰書店)
作者の菊田一夫、作品中では菊井一夫の葬儀で、四半紀ぶりに中年となった出演者たちが集まった時、番組に関わった人たちの意外なその後が知らされる。
朗読を指導した女性は、ヒロシマの原爆で被爆しその後遺症で亡くなっていた。闇市でシケモクを売っていた少年は、苦学して東大を卒業後、60年安保闘争の敗北後に姿を消す。新憲法施行の後に中学生向けに配布された「あたらしい憲法のはなし」の思いを胸に、今や中年となった主人公の少年は、戦後民主主義が風化していく中で、「あの頃、僕らが鳴らした鐘は、今、どこで響いているのだろう」と人知れずつぶやくあたりに今日的な危機感がにじみ出る。