「民族共生象徴空間」(ウポポイ)で、アイヌとの「共生」は可能なのか
国立アイヌ民族博物館の歴史展示に、「差別」「偏見」「貧困」の文字はほとんどない
杉田聡 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)
前回、アイヌに関わる「民族共生象徴空間」(以下便宜的に「公園」と略す。愛称ウポポイはアイヌ語で「(大勢で)歌い合う」という意味だという)に併設された慰霊施設に関する問題点を論じた。
「民族共生象徴空間」(ウポポイ)になぜ慰霊施設があるのか
これと並んで問われるべきは、公園の中核施設である「国立アイヌ民族博物館」(以下「博物館」)の展示である。それは6つの分野に分けられている(後述)。いずれも興味深いが、問題が多いのは「歴史」分野である。

国立アイヌ民族博物館の基本展示室=北海道白老町
半数近くがアイヌと言うが
そもそも展示はどのように決められたのであろうか。
「一番大事にしたのは、アイヌ民族が展示をつくっていくという原則」だったと、館長(和人)は述べている(朝日新聞2020年7月11日付北海道版)。それを担保するのは、展示方法を決める作業部会の「半数近くが北海道各地のアイヌの人々」である点のようである。だが「歴史」展示に特化した時、この言い分はなりたつのか。
歴史展示に関係したのは4人(1人は他の分野と併任)であるが、「北海道博物館学芸員」、「北海道博物館アイヌ民族文化研究センター長」、「北大文学部准教授」、「小平(おびら)町教育委員会社会教育課文化係長」のうちに、アイヌが何人いるのであろうか。
しかもたった4人で、アイヌの全歴史を責任をもって記述できるのであろうか。問題はやはり「明治」以降の歴史だが、これに専門的に関わりえたのは、せいぜい1人か2人であろう。もちろん作業部会の案は上位の「展示検討委員会」で検討されたのであろうが、同委員7人中アイヌ出身者は、私が調べた限り1人にすぎない。
「国立アイヌ民族博物館」を含む公園の運営者たる「アイヌ民族文化財団」に対しては、日本政府のにらみがきいている。同公園の「運営本部長」である代表理事・副理事長は、元「内閣官房アイヌ総合政策室北海道分室室長」である。副理事長として他に「北海道アイヌ協会常務理事」等も含まれるが、理事20人のうちアイヌは結局6人ていどに限られるようである。