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お布施の「目安」で葛藤する築地本願寺――仏教と人々の間の大きなズレ

薄井秀夫 (株)寺院デザイン代表取締役

ホームページから消されたお布施の金額

 新型コロナウイルスの感染拡大は、仏教界にも大きな影響をあたえた。特に一周忌などの年忌法要は三密の状態になりがちのため、法要を自粛するという家が相次ぎ、各地のお寺で活動が大きく停滞した。同時に、故人を偲ぶ法要が突然無くなってしまったことで、満たされない思いを残す遺族も少なくなかったようだ。

 そんな中で、東京の築地本願寺がオンライン法要を始めたことは、仏教のコロナ対策としてメディアでも話題となった(拙稿「オンライン法要をめぐる憂鬱――コロナ禍で揺れる仏教界」参照)。儀式は築地本願寺で行うが、依頼者や親類は自宅にいたまま、オンラインを通してモニター越しに参列するというものだ。

パソコンのカメラを通して読経する様子を見せる僧侶=2020年5月、東京都中央区、築地本願寺提供拡大パソコンのカメラを通して読経する様子を見せる僧侶=2020年5月、築地本願寺提供

 僧侶とは直接会わずに法要を行うので、お布施をどう渡すかが気になるところだが、築地本願寺のホームページによると、「お布施額 3万円以上(銀行振込又は現金書留にて)」とあり、お布施を振り込むか書留で送金することが記載されていた。

 6月のある日、このお布施についての記載が「お布施額 お気持ちですが、目安はお尋ねください」という内容にひっそりと訂正された。「3万円以上」が「お気持ち」に変わったということである。

 ところが約1カ月後、再びお布施の表示が「冥加金 3万円以上」に戻る。

 おそらくこれに気付いた人はほとんどいないだろう。ホームページの記載が1行変わっただけの、ささやかな訂正である。オンライン法要プロジェクトのちょっとした軌道修正にしか見えない。

 ただ現実は、築地本願寺にとってかなり重大な決断だったはずである。

 しかもこの訂正には、人々の意識との間のズレを解消できない現代仏教の葛藤が象徴されている。「お気持ち」よりも「3万円」とはっきり伝えた方が依頼しやすいことは明らかである。しかし僧侶らにとっては、そう簡単に「3万円」と言えない事情があるのである。

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筆者

薄井秀夫

薄井秀夫(うすい・ひでお) (株)寺院デザイン代表取締役

1966年生まれ。東北大学文学部卒業(宗教学専攻)。中外日報社、鎌倉新書を経て、2007年、寺の運営コンサルティング会社「寺院デザイン」を設立。著書に『葬祭業界で働く』(共著、ぺりかん社)、 『10年後のお寺をデザインする――寺院仏教のススメ』(鎌倉新書)、『人の集まるお寺のつくり方――檀家の帰属意識をどう高めるか、新しい人々をどう惹きつけるか』(鎌倉新書)など。noteにてマガジン「葬式仏教の研究」を連載中。