2020年08月13日
新型コロナウイルスの感染拡大は、仏教界にも大きな影響をあたえた。特に一周忌などの年忌法要は三密の状態になりがちのため、法要を自粛するという家が相次ぎ、各地のお寺で活動が大きく停滞した。同時に、故人を偲ぶ法要が突然無くなってしまったことで、満たされない思いを残す遺族も少なくなかったようだ。
そんな中で、東京の築地本願寺がオンライン法要を始めたことは、仏教のコロナ対策としてメディアでも話題となった(拙稿「オンライン法要をめぐる憂鬱――コロナ禍で揺れる仏教界」参照)。儀式は築地本願寺で行うが、依頼者や親類は自宅にいたまま、オンラインを通してモニター越しに参列するというものだ。
僧侶とは直接会わずに法要を行うので、お布施をどう渡すかが気になるところだが、築地本願寺のホームページによると、「お布施額 3万円以上(銀行振込又は現金書留にて)」とあり、お布施を振り込むか書留で送金することが記載されていた。
6月のある日、このお布施についての記載が「お布施額 お気持ちですが、目安はお尋ねください」という内容にひっそりと訂正された。「3万円以上」が「お気持ち」に変わったということである。
ところが約1カ月後、再びお布施の表示が「冥加金 3万円以上」に戻る。
おそらくこれに気付いた人はほとんどいないだろう。ホームページの記載が1行変わっただけの、ささやかな訂正である。オンライン法要プロジェクトのちょっとした軌道修正にしか見えない。
ただ現実は、築地本願寺にとってかなり重大な決断だったはずである。
しかもこの訂正には、人々の意識との間のズレを解消できない現代仏教の葛藤が象徴されている。「お気持ち」よりも「3万円」とはっきり伝えた方が依頼しやすいことは明らかである。しかし僧侶らにとっては、そう簡単に「3万円」と言えない事情があるのである。
築地本願寺が属する浄土真宗本願寺派は、全国約8万のお寺のうち、約1万の末寺を抱える巨大宗派である。特に築地本願寺は、本山である京都の西本願寺の直轄寺院という特別な地位にある。
実は、日本の仏教宗派には、宗会という議会があり、選挙で選ばれた宗会議員が宗派の重要な問題を議論し、政策を決定している。日本という国家における国会と同じ役割を果たしていると言えばわかりやすいだろう。
特に、本願寺派の宗会は明治14(1881)年に開設されており、日本の帝国議会より9年早く、日本で最初に選挙制を取り入れたという伝統ある議会である。
6月にこの宗会が開かれていたのだが、そこである議員が、この築地本願寺で取り組むオンライン法要について一般質問を行ったのである。
「お布施に対して
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