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赤木雅子さんとともに『私(たち)は真実が知りたい』

大槻慎二 編集者、田畑書店社主

居酒屋があんなにウルサイ理由

 話は変わるが、会社を辞めて10年になる。あらゆる「組織」を離れて10年も経つと、そのなかにいる人の「実感」からはかなり離れてしまっているかもしれない。それを承知でいうのだが、近ごろわからないことがある。それは、居酒屋にいるサラリーマンの集団は、何であんなにウルサイのだろうか、ということである。それも例外なく、である。

Kento35shutterstock拡大Kento35/Shutterstock.com

 われもわれもと大声を張り上げてしゃべる。引き攣(つ)ったような笑い声。内容はといえば、聞いていて恥ずかしくなるようなレベルの会話である。そしてひと目で、そこにいるいちばんエラい人は誰かが分かる。男だけの集団かというと、そうでもない。女性も負けてはいない。嬌声というか、これも尋常ならぬ高い声で笑い転げている。こちらはカウンターでひとりで飲むか、せいぜい2、3人、多くて数人の酒席である。耳をつんざくような騒音に顔を顰(しか)めながら、顔を寄せ合ってボソボソとしゃべるほかない。

 およそ四半世紀も勤め人をやってきた身としては、しみじみ知っている。仕事を終えて、気の置けない職場の同僚と一杯やることの楽しみを。美味くて安い店を探し、そこでしこたま飲む快感を。上司の悪口を言い合って、時には羽目を外すこともある。正体がなくなるまで飲み潰れることだってある。

 しかし、いま居酒屋にいる彼ら彼女らは、そういう飲み方とちょっと違うのだ。酒飲みだからこそ分かるのだが、

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筆者

大槻慎二

大槻慎二(おおつき・しんじ) 編集者、田畑書店社主

1961年、長野県生まれ。名古屋大学文学部仏文科卒。福武書店(現ベネッセコーポレーション)で文芸雑誌「海燕」や文芸書の編集に携わった後、朝日新聞社に入社。出版局(のち朝日新聞出版)にて、「一冊の本」、「小説トリッパー」、朝日文庫の編集長を務める。2011年に退社し、現在、田畑書店社主。大阪芸術大学、奈良大学で、出版・編集と創作の講座を持つ。フリーで書籍の企画・編集も手がける。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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