メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

ピンチ乗り越え、浪曲の灯を高く、遠くへ

ライブ配信奮闘記(下)

玉川奈々福 浪曲師

 新型コロナのために実演の場を失い、鬱々としていた奈々福さん。浪曲特有の声の波動や圧を伝えるのが難しいと、「配信」には乗り気でなかったが、以前ラジオ配信をいっしょにやった「海ちゃん」、イベント仕掛け人のTAKEさん、映像作家の田島空さんの助言や、いとうせいこうさんからの配信フェスへの誘いを受けて、YouTube「奈々福チャンネル」で活動を始めました。「うなる!語る!ソウルフル!玉川奈々福のほとばしる浪花節」、奮闘記の後編です。(前編はこちら

配信でも、あくまで「ライブ」で

2020年5月13日にアップした配信予告の動画「 奈々福 YouTuberになる!」の玉川奈々福(左)と沢村豊子=YouTube「奈々福チャンネル」から
 「浪曲の配信、やりまーす!」

 と、突然言い出した奈々福に、空・海・竹のお三方、それぞれ、大いに慌てたことと思います。いとうさんに配信しますと言って、勝手に日程も決めていた。第1回が5月17日、第2回5月24日、第3回5月30日……ひどいね。いきなり3回連続配信を決めていた。しかも決めた日から、最初の配信の日まで、1週間しかない!!!

 さて、相談だ。

 いままでばらばらに相談していた三人に、チームになってもらうことにしました。

 TAKEさんは、動画配信の実績あり。とはいえ、浪曲の配信の経験はありません。田島さんは映像作家だから、数々記録動画を作ってこられましたが、配信は初めて。なぜかネットに異常に詳しい海ちゃんも、もちろん経験なし。

 全員、浪曲配信未経験のチーム奈々福、発足。

 まず。

 収録してから配信するか。ライブ配信にするか。

 どういう態勢をつくるか。

 資金面はどうするか。

 私はライブ配信にしたかった。場所は共有できなくても、お客さんと、時間を共有する、あくまでも「ライブ」でやりたかった。

 わかりましたと、配信態勢を請け負ってくれたのはTAKEさんです。どこから配信するか、場所を決め、さまざまな環境を確認し、機材を考え始めた。

 落語と、浪曲の配信はちょっと違います。

 落語は、カメラひとつでも可能。一人の人間が座布団の上で座って演じる芸だから。

 浪曲は、立って演じる上に、三味線がいます。

 それを全部画面に収めるとなると、とても引いた画面になる。

 となると、スマホで見ている人などには、演者の表情などが見えにくくなる。

 カメラ1台ではだめ。最低2台必要。その上で、どう映すか、台本をにらんで綿密な打ち合わせが必要になります。

 田島さんは、それまでも数々浪曲の舞台を収録してくれて、多い時にはカメラ4台用意してくれていた人ですから、そこらへんは心得たもの。TAKEさんと田島さんが、私にはまったくわからないテクニカルタームで、相談を始めました。

 さて、大事な資金面はどうするか……これについては目論見が立たない。

意地の一灯、「なんとかする!」

 配信には、お金がかかります。

 場所代、機材費、機材レンタル費用、配信スタッフのギャランティ、出演者ギャランティ。

 どれだけかかるんだろう。

 それを話し合っている時間もない。

 でも、私は有料配信にはしたくなかった。

 なぜ、配信をいま、しようと思ったのか。

 絶滅危惧芸能である浪曲が、さらに絶滅危惧状態に追い込まれている今。

 意地の一灯を掲げたいから。

 すべてのライブが中止になっている中で、これ以上浪曲を埋もれさせてしまいたくない、と、やはり思った。

 一灯を掲げるなら、今までのファンの方々だけにとどめていては駄目でしょう。

 いままで届かなかった、遠方へ。

 浪曲のろの字も知らない人の元へ。

 さまざまな事情でライブに足を運ぶことのできないひとのもとへ。

 ふらり入ってこられるように、無料配信に。

 有料という選択肢は、私にはない。

 「なんとかする!」

・・・ログインして読む
(残り:約3674文字/本文:約5275文字)