ライブ配信奮闘記(下)
2020年08月21日
新型コロナのために実演の場を失い、鬱々としていた奈々福さん。浪曲特有の声の波動や圧を伝えるのが難しいと、「配信」には乗り気でなかったが、以前ラジオ配信をいっしょにやった「海ちゃん」、イベント仕掛け人のTAKEさん、映像作家の田島空さんの助言や、いとうせいこうさんからの配信フェスへの誘いを受けて、YouTube「奈々福チャンネル」で活動を始めました。「うなる!語る!ソウルフル!玉川奈々福のほとばしる浪花節」、奮闘記の後編です。(前編はこちら)
と、突然言い出した奈々福に、空・海・竹のお三方、それぞれ、大いに慌てたことと思います。いとうさんに配信しますと言って、勝手に日程も決めていた。第1回が5月17日、第2回5月24日、第3回5月30日……ひどいね。いきなり3回連続配信を決めていた。しかも決めた日から、最初の配信の日まで、1週間しかない!!!
さて、相談だ。
いままでばらばらに相談していた三人に、チームになってもらうことにしました。
TAKEさんは、動画配信の実績あり。とはいえ、浪曲の配信の経験はありません。田島さんは映像作家だから、数々記録動画を作ってこられましたが、配信は初めて。なぜかネットに異常に詳しい海ちゃんも、もちろん経験なし。
全員、浪曲配信未経験のチーム奈々福、発足。
まず。
収録してから配信するか。ライブ配信にするか。
どういう態勢をつくるか。
資金面はどうするか。
私はライブ配信にしたかった。場所は共有できなくても、お客さんと、時間を共有する、あくまでも「ライブ」でやりたかった。
わかりましたと、配信態勢を請け負ってくれたのはTAKEさんです。どこから配信するか、場所を決め、さまざまな環境を確認し、機材を考え始めた。
落語と、浪曲の配信はちょっと違います。
落語は、カメラひとつでも可能。一人の人間が座布団の上で座って演じる芸だから。
浪曲は、立って演じる上に、三味線がいます。
それを全部画面に収めるとなると、とても引いた画面になる。
となると、スマホで見ている人などには、演者の表情などが見えにくくなる。
カメラ1台ではだめ。最低2台必要。その上で、どう映すか、台本をにらんで綿密な打ち合わせが必要になります。
田島さんは、それまでも数々浪曲の舞台を収録してくれて、多い時にはカメラ4台用意してくれていた人ですから、そこらへんは心得たもの。TAKEさんと田島さんが、私にはまったくわからないテクニカルタームで、相談を始めました。
さて、大事な資金面はどうするか……これについては目論見が立たない。
配信には、お金がかかります。
場所代、機材費、機材レンタル費用、配信スタッフのギャランティ、出演者ギャランティ。
どれだけかかるんだろう。
それを話し合っている時間もない。
でも、私は有料配信にはしたくなかった。
なぜ、配信をいま、しようと思ったのか。
絶滅危惧芸能である浪曲が、さらに絶滅危惧状態に追い込まれている今。
意地の一灯を掲げたいから。
すべてのライブが中止になっている中で、これ以上浪曲を埋もれさせてしまいたくない、と、やはり思った。
一灯を掲げるなら、今までのファンの方々だけにとどめていては駄目でしょう。
いままで届かなかった、遠方へ。
浪曲のろの字も知らない人の元へ。
さまざまな事情でライブに足を運ぶことのできないひとのもとへ。
ふらり入ってこられるように、無料配信に。
有料という選択肢は、私にはない。
「なんとかする!」
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