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「21世紀のアフリカ」がもたらす衝撃――世界と日本の未来を考える3冊

駒井 稔 編集者

政治や経済だけではない付き合い方

 最後に1970年代の初頭のアフリカについて書かれたエッセイ集をご紹介しましょう。『花のある遠景――東アフリカにて』(青土社、増補新版)。文化人類学者・言語学者である西江雅之さんの筆になる作品です。

『花のある遠景――東アフリカにて』(青土社、増補新版)拡大西江雅之『花のある遠景――東アフリカにて』(青土社、増補新版)
 私が20代のころの愛読書でした。仲の良い会社の先輩と渋谷の道玄坂にあった居酒屋で本の話ばかりしていましたが、ある晩、彼に本書の存在を教えられたのです。学者臭など微塵もなく、アフリカの市井の人々との交友を淡々と綴った内容は、人間の物語として何の違和感もなく読むことができました。

 著者の西江さんは英語はもとより、スワヒリ語など、現地の言葉にも精通していましたから、それまでのアフリカ旅行記とはまるで違う、等身大のアフリカが描かれているのです。もちろん、出会う人々は善人ばかりではありませんが、アフリカ人を一人も知らない私にも、登場人物たちがすべて隣人のように思えてくる筆力に圧倒されました。

 特に好きだったのは「三人の女」。ケニアの首都、ナイロビの「夜の女」である3人の女性との交友を描いたものです。3人の女性のうち二人には子どもがいます。そのうちの一人、ンジェリが聞くのです。「この子の父親は、何処の国の人だか教えて下さいよ」と。西江さんは答えます。「顔つきから見ると、イタリア人だよ」。さりげない会話ですが、このやりとりに西江さんのアフリカ人との付き合い方の原型があるように思います。

 文化的他者をあるがままに受け入れて、付き合っていくことは案外難しいことではないでしょうか。アフリカという日本から遙か遠い土地で、こんな風に自然体で振る舞えることが、若い私にはとても素敵に思えたのです。今回久しぶりに読み直してみて、さらにその感を深くしました。

西江 雅之=1992拡大西江雅之=1992年

 ケニアのモンバサという港湾都市に住むインド人の友人、バルデヴさんとの交際のエピソードを綴った「ある友人」も心に残ります。アフリカにはインド人がたくさん住んでいること、インド人の微妙な立ち位置も書かれています。著者とバルデヴさんは、キリマンジャロに登るために宿泊したホテルで偶然、知り合い、友人になるのですが、便りの交換がないので、モンバサを訪問する度に会っているだけです。しかし、行けば必ず会いに行く「友人」なのです。アフリカにこんな友人がいる。とても羨ましく思ったことを思い出しました。

わたしは、裏町の人びとの生活を調べて、何かの報告書を書くためにあの場所で暮らしたわけではない。この一連の物語は、わたしが人生の一時期を過ごした“異郷”での個人的な思い出を綴ったものである。

 西江さんの言葉は、アフリカのみならず、異国で人々と付き合うことは、このようなことではないか、と問いかけてきます。21世紀はアフリカの世紀だとよく言われます。しかし、政治や経済だけではない付き合い方もあるはずです。いえ、それが一番大切なのかもしれません。

*ここで紹介した本は、三省堂書店神保町本店4階で展示・販売しています。

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筆者

駒井 稔

駒井 稔(こまい・みのる) 編集者

1979年、光文社入社。1981年、「週刊宝石」創刊に参加。1997年に翻訳編集部に異動になり、書籍編集に携わる。2004年に編集長。2年の準備期間を経て2006年9月に古典新訳文庫を創刊。「いま、息をしている言葉で」をキャッチフレーズに古典の新訳を刊行開始。10年にわたり編集長を務めた。筋金入りの酔っ払いだったが、只今禁酒中。1956年、横浜生まれ。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです