メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

コロナ禍で苦戦するフランスの映画館(上)――上映再開はしたけれど

林瑞絵 フリーライター、映画ジャーナリスト

「閉めた方がお金を失わずにすむ」

 このようにフランスは、経済面とのバランスを気にしながらも、客に不安を与えぬよう細やかな感染対策を講じている。そして営業再開からひと月以上が流れたが、映画館の客足は思ったほど伸びていないのが現状だ。

 2019年7月はフランス全土で約1800万人の動員があったが、今年は約600万人、と3分の1に落ちた。映画館再開から1カ月後の7月21日、大手映画館チェーンのパテ・ゴーモン社代表のオレリアン・ボスク氏はラジオのインタビューに登場し、「長らく閉まっていた映画館への渇望があって常連客は戻ったが、たまに映画を見るくらいの観客はデリケート」「観客動員数は通常の25~30%。(会社としては)割に合わない」と語っている。

 筆者も映画館に行くたびにスタッフに様子を尋ねているが、「客足が戻らない」という声ばかりが返ってくる。実際、閑古鳥が鳴く回も多く、客が自分一人ということもあった。

 そんな折、7月27日にはパリ2区の独立系映画館グラン・レックスが、8月3日から25日まで営業を停止すると発表し話題に。1932年創業で歴史的建造物にも指定されるこの映画館は、7スクリーンを持ち、最も大きなスクリーンで座席数が2702人。大通りを見下ろすアール・デコ調の建築は堂々として立派で、地域のランドタワー的役割も担っている。

パリ2区の映画館グラン・レックス拡大パリ2区の映画館グラン・レックス=撮影・筆者

 苦渋の決断をしたグラン・レックスの代表アレクサンドル・ヘルマン氏は、「スタッフに仕事がないのに“来て”と頼むより、映画館を閉めた方がお金を失わずにすむ。今はやる気が削がれる状態にあるのだ」とコメント。このように8月に映画館を閉める決定を下したのは、確認できるだけで、パリで18館にのぼっている。

 先日、筆者もグラン・レックスで映画を見た。金曜の夕方、約239の座席数で観客は筆者を入れ計7人。上映作品は、香港映画『イップ・マン 完結』。娯楽作だからもっと観客がいるかと思ったが、想像以上に閑散としていた。映画館の受付やロビーではスタッフを3人見かけたが、たしかに所在なさげであった。

グラン・レックスで映画を見ていた客。「あえて人が少なそうな平日の夕方を狙って来ている」拡大グラン・レックスの観客セバスチャンさん。「人が少なそうな平日の夕方を狙って来た」=撮影・筆者
 同じ上映回を見た観客のひとりのセバスチャンさん(45)は、
・・・ログインして読む
(残り:約1542文字/本文:約3677文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

林瑞絵

林瑞絵(はやし・みずえ) フリーライター、映画ジャーナリスト

フリーライター、映画ジャーナリスト。1972年、札幌市生まれ。大学卒業後、映画宣伝業を経て渡仏。現在はパリに在住し、映画、子育て、旅行、フランスの文化・社会一般について執筆する。著書に『フランス映画どこへ行く――ヌーヴェル・ヴァーグから遠く離れて』(花伝社/「キネマ旬報映画本大賞2011」で第7位)、『パリの子育て・親育て』(花伝社)がある。

林瑞絵の記事

もっと見る