2020年08月20日
フランスでは6月22日から、映画館の営業開始に青信号が灯った。この日、全国2045の映画館(6114スクリーン)のうち、約9割が3カ月ぶりに営業を再開した。
全国仏映画館連盟(FNCF)は、コロナ禍の閉館で延べ約6000万人の観客を失い、興行の損害額は約4億ユーロ(約500億円)と見積もっている。
営業再開の日はお祝いムードに包まれた。パリ9区の独立系映画館サンク・コーマルタンは、0時1分からスタートとなる真夜中の舞台挨拶付き先行上映会を実施。上映作品はグレゴリー・マーニュ監督のヒューマンドラマ『Les Parfums パルファン(香水・芳香)』。主演のエマニュエル・ドゥヴォスも会場に駆けつけ、「以前は映画館でポップコーンを食べる人に耐えられなかったけど、私が間違っていた」と挨拶した。
映画館再開に当たり、全国仏映画館連盟は6月初頭に詳細なガイドラインを作成している。当初は販売する座席の定員を「席数の最大50%」とした。ところが営業再開前日の6月21日に、このルールを撤廃。ただし、全ての席を埋めていいのではなく、家族や友人、カップルなど一緒に来た人は隣に座れるが、別グループとは両側を1席開けないといけないというものだ。
この直前の改正は、最大限、観客を受け入れたいという映画館側の希望を通したものだろう。日本の映画館は、現行では定員が最大50%が多いようだが、グループ客の場合、映画館に来てから急に距離をとっても意味がないと思うので、フランス式にした方が良いだろう。特に子供連れの家族の場合、親子が隣に座れないのは不便ではないか。
マスクは、フランスの映画館は、ロビーなどの共有スペースでは着用が「義務」。しかし、いったん座席に座ってからは、義務ではない。
マスクに関しては、興行者の間でも意見が割れている。中には、独自の判断で着席後も客に着用を促す映画館もある。それに映画館によっても、建物の造りや換気状況は様々。ガイドラインの順守具合も、細かく見ると館によってばらつきがある。個人的には小さめの映画館の場合は、着席後もマスク着用を義務にしてほしいと思う。
ちなみに、フランスはコロナ第2波の到来が指摘されている。ついにパリでは8月10日から、マルシェやセーヌ河岸など人が集まりやすい場所では、屋外でもマスク着用義務が始まるなど、ルールが再び厳しくなった。近いうちに映画館でも、上映中の着用が義務となる可能性もある。
ガイドラインには細かな感染対策が講じてあるが、例えば消毒に関しては、「入り口などに手指消毒液設置。客が触る場所を最低1日2回掃除と消毒。特に階段やエスカレーターの手すり」となっている。室内の消毒は1回につき30~45分かかるため、通常1日に5回上映だった映画館は、3、4回上映に減ってしまった。
このようにフランスは、経済面とのバランスを気にしながらも、客に不安を与えぬよう細やかな感染対策を講じている。そして営業再開からひと月以上が流れたが、映画館の客足は思ったほど伸びていないのが現状だ。
2019年7月はフランス全土で約1800万人の動員があったが、今年は約600万人、と3分の1に落ちた。映画館再開から1カ月後の7月21日、大手映画館チェーンのパテ・ゴーモン社代表のオレリアン・ボスク氏はラジオのインタビューに登場し、「長らく閉まっていた映画館への渇望があって常連客は戻ったが、たまに映画を見るくらいの観客はデリケート」「観客動員数は通常の25~30%。(会社としては)割に合わない」と語っている。
筆者も映画館に行くたびにスタッフに様子を尋ねているが、「客足が戻らない」という声ばかりが返ってくる。実際、閑古鳥が鳴く回も多く、客が自分一人ということもあった。
そんな折、7月27日にはパリ2区の独立系映画館グラン・レックスが、8月3日から25日まで営業を停止すると発表し話題に。1932年創業で歴史的建造物にも指定されるこの映画館は、7スクリーンを持ち、最も大きなスクリーンで座席数が2702人。大通りを見下ろすアール・デコ調の建築は堂々として立派で、地域のランドタワー的役割も担っている。
苦渋の決断をしたグラン・レックスの代表アレクサンドル・ヘルマン氏は、「スタッフに仕事がないのに“来て”と頼むより、映画館を閉めた方がお金を失わずにすむ。今はやる気が削がれる状態にあるのだ」とコメント。このように8月に映画館を閉める決定を下したのは、確認できるだけで、パリで18館にのぼっている。
先日、筆者もグラン・レックスで映画を見た。金曜の夕方、約239の座席数で観客は筆者を入れ計7人。上映作品は、香港映画『イップ・マン 完結』。娯楽作だからもっと観客がいるかと思ったが、想像以上に閑散としていた。映画館の受付やロビーではスタッフを3人見かけたが、たしかに所在なさげであった。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください