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落合恵子さん 子どもたちと本との〝架け橋〟になって……

子どもの本の専門店「クレヨンハウス」を主宰して40年余。ENEOS児童文化賞受賞

梓ゆかせ フリーライター

 子どもの本専門店「クレヨンハウス」(1976年創業)主宰者で、作家の落合恵子さん(75)に「第55回ENEOS児童文化賞」が贈られることになった。1966年創設の歴史ある賞。半世紀近くも子どもたちと本との〝架け橋〟になってきた功績が高く評価された。

 今は〝本離れ〟が叫ばれる時代だ。一向に収まる気配がない新型コロナ禍の中で、落合さんが改めて実感したのは、子どもたちにとっての「読書体験の大切さ」だった。

落合恵子さん ©神ノ川智早

落合恵子 おちあい・けいこ
1945年1月、栃木県出身。明治大学文学部卒。67年、ラジオ局「文化放送」に入社し、深夜放送「セイ!ヤング」のパーソナリティーなどとして人気を呼ぶ。76年、子どもの本専門店「クレヨンハウス」を創設。その後、安全な玩具や化粧品、野菜などの販売や、オーガニックレストランを開き、情報発信基地となる。最近の著書に「泣きかたをわすれていた」「明るい覚悟 こんな時代に」(9月刊行)など。98年、エイボン女性年度賞功績賞受賞。

「絶え間ないストレス」を感じるコロナの日々

 「毎朝、起きると気持ちが良くない。(コロナの感染者数が)明日はもっと増えるかもしれないと思うとイヤになる。何ら有効な手を打てないままに時間が過ぎてゆく…『絶え間ないストレス』を感じています。なぜこんな大事な時期に国会を閉じちゃったのか? 政治家はもっと真剣に、ひとりひとりの生命と安全を守るために全力を尽くしてもらいたいと思う」

 感染拡大が止まらない新型コロナウイルス。無為、無策の国や自治体の対応に怒りが収まらない。不十分な情報開示、他国に比べて少ないPCR検査数、対策費の使い方にも不信感は募る。

 「私のところにも、たくさんのシングルマザーから相談が寄せられています。非正規雇用が多く、仕事を無くしたりして、食べるにも困っているんです。どの社会に生まれたかで人生が変わってしまうなんて、子供っぽい言い方になりますが、それを『無念』に思いますね」

“座り読み”を呼びかけて

 緊急事態宣言が出されていたときは、クレヨンハウスも休業を余儀なくされた。だが、ピンチはチャンスでもある。“巣ごもり”中で時間があるなら、ぜひ本を読んでほしい、と読書キャンペーンを始めた。

 宣言が解除され、再オープンした今は、感染防止対策を取りながら、子どもたちに「夏休みに行くところがないならウチ(クレヨンハウス)へ“座り読み”に来て」と呼びかけている。

 〝座り読み〟ができる本屋さん、はクレヨンハウスのトレードマークのひとつだ。店内に読書スペースが設けられ、好きな本を持ってきて、ゆっくり座りながら本を読むことができる。当初は、本の流通業者に猛反対された。本が汚されてしまう、分厚い絵本を読むので本を買わない子どもに長時間居座られてしまう……云々。

 「絵本はあっという間に読めてしまうもの。(流通業者は)そんなことも知らなかった。それに、子どもたちはとっても大事に、きれいに本を扱ってくれました。読んだ後は、ちゃーんと元あった場所に返してくれますしね」

読書の面白さを知った「原体験」

 読書の面白さを知った「原体験」の時間がある。

 シングルマザーの母親と2人暮らしだった少女のころ、夕方、一緒に遊んでいた友達が晩ごはんに帰った後、仕事から戻る母親を、ひとりアパートの階段に座って待っていた。

 「そこが私の〝指定席〟。毎日30分くらいだったかな。そこで大好きな本を読む。物語の登場人物と語り合ったり、空想したり…。そんな私を見てかわいそうに思ったのか、『ウチで晩ごはん食べなさい』って誘ってくださった近所の方もいましたが、私にとっては結構楽しい時間だったのです」

「子どものころ、“大好きな物語”に出会ってほしい」

落合恵子さん ©神ノ川智早
 絵本は子どもだけの本ではない。「子どもから」楽しむことができる本だ、という。

 例えば、1942年にアメリカの絵本作家、バージニア・リー・バートンが書いた不朽の名作「ちいさいおうち』。田舎の擬人化された小さな家が主人公。静かだった周囲が次第に都市化されてゆく光景が、時にユーモラスに、時にシリアスに描かれる。

 「戦争の時代に書かれた作品ですが、今の環境問題にも通じる内容です。

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