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老舗三味線メーカー廃業の危機、音楽界への衝撃

コロナ禍の苦境、逆回転させる発想を

前原恵美 東京文化財研究所無形文化財研究室長

需要低迷、消費税引き上げ、そこにコロナ

拡大「東京和楽器」代表の大瀧勝弘さん
 東京都八王子市に本社を置く「株式会社東京和楽器」の従業員は21人。メーカーとしては最大規模と言ってよい。現在、同社の代表を務める大瀧勝弘さん(80歳)の祖父である大瀧力太郎氏が1885(明治18)年に創業した「胴屋(三味線の胴になる木材を見立てて提供する)」をルーツとし、そこから数えて135年の歴史がある。

 大瀧代表にうかがうと、廃業を決めた理由は大きく言って三つあるという。

 そもそも数十年来、稽古事として三味線を弾く人が減り続けており、需要低迷に回復の兆しが見えない状況があった。そこに昨年、消費税が10%に上がったことが大きな痛手になった。さらに追い討ちをかけたのが、今春からのコロナ禍である。

 コロナ禍で三味線の公演が全てストップした上に、プロ演奏家のもう一つの収入源である弟子の稽古も難しくなった。

 三味線音楽の多くは唄や語りを伴い、弾き唄いないし弾き語りする師匠と対面で稽古することが多い。そのためリアル稽古は中断せざるを得なくなった。リモート稽古するにも、映像と音声のずれが生じる状況では課題が多い。

 公演、稽古がともに出来なくなった演奏家は、三味線を新調するどころか修理も控えるようになり、これが三味線の小売店やメーカーを直撃したのだ。

 「東京和楽器」は、いったんは8月15日で廃業すると決めたが、その後の報道等により小売店からの注文が殺到した。製作がフル稼働の状態になり、それらを納品する秋くらいまでは営業が続く見込みになっている。

 しかしこれは、「東京和楽器」の廃業によって仕入れが滞ることを懸念した小売店が、在庫を確保するために先取りして注文しているために起きている現象だ。いまは製作現場が繁忙でも、それが一段落すると、今度は注文がストップすることも推測される。根本的な問題解決が必要なことに変わりはない。


筆者

前原恵美

前原恵美(まえはら・めぐみ) 東京文化財研究所無形文化財研究室長

東京藝術大学大学院後期博士課程(音楽学)単位取得満期退学。1991年より五世常磐津文字兵衛に師事、93年に常磐津紫緒の名を許される。99年、「第15回清栄会奨励賞」(研究者部門)受賞。有明教育芸術短期大学教授を経て、独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所へ。古典芸能や無形文化財の研究と並行して、演奏活動もしている。著書に『常磐津林中の音楽活動の軌跡―盛岡市先人記念館所蔵林中本を手掛かりに』(武久出版、2013年)。https://maehara-m.jp/

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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