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「治療よりも仕事を優先したい」のはいけないことなのか?

薬剤師が主役のドラマ「アンサング・シンデレラ」から考える「医療」と「生活」

牛山美穂 大妻女子大学准教授(文化人類学、医療人類学)

 前稿で紹介したドラマ「アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋」(フジテレビ系)の第3話には、病気を抱えた小学校教師、新田奏佑(浅利陽介)が登場する。彼は情熱をもって小学校教師を務めていたが、病気から毎週3回、血液透析に通わなくてはならず(透析には1回4時間かかる)、自分の満足のいくように仕事に打ち込めないことに辛い気持ちを抱えていた。

ドラマ「アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋」(フジテレビ系)「アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋」(フジテレビ系)=カンテレ提供

 彼には、「治療よりも仕事を最優先したい」という気持ちがあり、吐き気を伴う薬をあえて服薬しなかったり、腎機能障害をもつ患者は飲んではいけない栄養ドリンクをたくさん飲んだりしながら、教師としての仕事を何とか務めていた。

 また、新田は、いつも透析をした後、夜間営業しているドラッグストアで、深夜11時過ぎに薬を処方してもらうのが常なのだが、そのドラッグストアに勤める薬剤師の小野塚綾(成田凌)は、新田が食前に飲まなければならない薬を食後の薬と一緒にひとまとめにして1回分として袋に包装していたり、薬の効き方が変わってしまうため、本当は半分に割って処方してはいけない20mgの薬を半分に割って10mgの薬として処方したりしていた。

 そんな中、新田は授業中に倒れてしまい病院へ搬送され、薬剤師の葵みどり(石原さとみ)が勤める病院に入院することになる。そこで、葵は新田が処方されている薬を見て、いい加減な薬の出し方に気が付き、ドラッグストアに電話をかけ(さらに後日直接出向き)、小野塚と口論を交わす。すると、薬剤師の小野塚は、新田が透析のために時間がなくて忙しいことを考慮して、たまたま在庫を切らしていた10mgの薬を後日わざわざ新田に取りにきてもらうのは大変だろうからと、薬の効き方が変わってしまうのはわかっていたうえで20mgの薬を半分に割って処方していた、と話す。

 ここでは、「正しい服薬」をしてほしい葵と、現実的なさまざまな事情からそれが患者にとっては難しいだろうと考えている小野塚の意見がぶつかり合うことになる。

「医療」と「生活」のぶつかり合い

 この、「正しい治療」と、現実的なさまざまな事情から「正しい治療」ができないという事情――「医療」と「生活」のぶつかり合いともいえるだろう――は、おそらくさまざまな病気に関しても持ち上がる事態であろう。新田の「治療よりも仕事を最優先したい」という気持ちも、こうした、「正しい治療」を選ぶか、「生活」を優先させるか、という話の、「生活を優先したい」という思いからきている。

 この「治療よりも仕事を優先したい」という新田の思いに共感する患者も数多くいるのではないだろうか。というのも、患者にとっては、治療のほかにも仕事や育児や学業など、優先したいさまざまな事柄が生活のなかにあるはずだからである。医療従事者の目から見ると、治療がすべてに優先される事柄に思えても、患者にとっては、治療は生活のなかの一部であり、それよりも優先したい事柄があってもおかしくはない(とくに病気が、直接命にかかわらない場合はその傾向も強くなるだろう)。

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 こうした治療を優先したい医療従事者の視点と、生活を優先したい患者の視点では、

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