「不安ぜんぶ棚卸しワークショップ」のこころみ
2020年08月31日
9月1日は「防災の日」ということで、この日に災害を想定した訓練を行う団体は多い。本稿では学校での避難訓練と防災体制改善について、具体的な方法を紹介しつつ考えてみたい。
学校の避難訓練をどうすればよいか、相談をいただくことがある。訓練シナリオを見せてもらうと、「授業中に非常ベルが鳴る、教頭先生の避難指示放送が入る、〈押さない・走らない・しゃべらない〉おはしルールを守って児童生徒が校庭に出る、人数を数える、校長先生がストップウォッチで避難完了までの秒数を測って訓示する」といった流れが書き込まれている。避難訓練は大切だが、筆者が小学生だった30年近く前からあまり変わっていない。
避難訓練を担当する先生もそのことは痛感しておられて、「休み時間に非常ベルを鳴らす」「児童には抜き打ちで訓練を開始する」などのパターンを試してみたいと言う。だが、避難訓練のマンネリ化から抜け出すために、目先の設定だけ変えてみても、より大きな意味では結局マンネリ化に陥ったままだ。
こうした避難訓練のマンネリ化は多くの学校で現場の先生方が感じておられることではないかとおもう。最大の問題は「何のための訓練なのか」という視点が欠けたまま避難訓練の目先の変更や学校防災マニュアルの改訂を焦ってしまい、訓練そのものが目的化してしまうことにある。さらにその背景には先生方の多忙がある。
現場の先生方や保護者、また児童生徒さんたち自身が、こんな避難訓練でよいのだろうかと漠然とした不安を抱えたままなのではないか。他方で、避難訓練を実施する先生たちは児童生徒の命を守るという責任をいちばん痛感している。どうすればよいだろうか。
必要なことは学校全体の防災体制を長期戦で鍛えてゆくことだ。そのためには教職員の意識を共有し、何年もかけてじっくり前進してゆく仕組みを組織が身につけることが求められる。避難訓練はあくまでその過程における一つの手段である。
学校の防災体制を育ててゆくためには、(1)まず先生たちが抱えている防災の不安を全員で共有し、(2)課題を洗い出して、改善にかかるコストや手間をみきわめ、優先順位を整理し、(3)年度内の目標を設定して担当チームを決めて実施し、(4)定期的に進捗状況を確認する、という流れをつくる必要がある。
この先生たちの「学校防災PDCA(Plan→Do→Check→Action)サイクル」に保護者・地域・児童生徒が加わってゆくのが理想的だとおもうけれど、本稿はまず教職員を中心とした取り組みに焦点を絞る。
ここでは上記の4つの段階のうち(1)にあたるものとして、筆者が試行している「不安ぜんぶ棚卸しワークショップ」の方法を紹介したい。
ワークショップは学校での教職員向け研修として行う。約1時間で終わる。可能な限りその学校に在籍する教職員全員が一度に参加するのが望ましい。
5-6人くらいがひとつのグループをつくってテーブルに座り、模造紙と大きめの「付箋」を準備する。以下、ワークショップの段階を追ってゆく。
次のような「想定」を読み上げ、先生たちに想像力のスイッチを入れてもらう。
「いまは9月2日の午前10時15分です。あなたがいつもどおり仕事をしていると、近くでだれか(児童や同僚の先生)が、『なんだか焦げくさい。変な臭いがする』とつぶやきました。あなたはなんとなくイヤな予感がして、窓から外の様子を見ようとしました。その瞬間、校舎内で非常ベルが大きな音で鳴り始めました」
読み上げたあと、先生たちに、その日のその時間帯に何をしているかをそれぞれ付箋に書いてもらう。「1年2組の教室で国語の授業をしている」「保健室で具合の悪い生徒を診ている」といったことが書かれてゆく。その日はたまたま出張に当たっているという場合もそのまま書いてもらう。
書き終わったらグループ内で共有する。付箋に書いた内容をグループの他のひとに説明して、順に模造紙に貼ってゆく。
なお、上記の文章は校内火災を想定したものだが、文章を入れ替えれば「地震」や「水害」にも応用できる。
「そのとき、あなたの周りでは何が起きているでしょうか。生徒の様子、音、臭い、モノ、電話機など、思いつくものごとをできるだけたくさん書き出してください」
前段に続いて、非常ベルが鳴った直後の様子を想像しながら書き出してもらう。
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