高原耕平(たかはら・こうへい) 人と防災未来センター主任研究員
1983年、神戸生まれ。大谷大学文学部哲学科卒。大阪大学文学研究科博士後期課程(臨床哲学)を経て現職。研究テーマは、災厄の記憶論と減災社会の技術論。最近の論文として、「オルタナティブ遺構論」(『復興』、近刊)、「0才児が語る阪神大震災:直後世代の震災学習と中間記憶」(『地域安全学会梗概集』、2020)など。
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
「不安ぜんぶ棚卸しワークショップ」のこころみ
学校の防災体制を育ててゆくためには、(1)まず先生たちが抱えている防災の不安を全員で共有し、(2)課題を洗い出して、改善にかかるコストや手間をみきわめ、優先順位を整理し、(3)年度内の目標を設定して担当チームを決めて実施し、(4)定期的に進捗状況を確認する、という流れをつくる必要がある。
この先生たちの「学校防災PDCA(Plan→Do→Check→Action)サイクル」に保護者・地域・児童生徒が加わってゆくのが理想的だとおもうけれど、本稿はまず教職員を中心とした取り組みに焦点を絞る。
ここでは上記の4つの段階のうち(1)にあたるものとして、筆者が試行している「不安ぜんぶ棚卸しワークショップ」の方法を紹介したい。
ワークショップは学校での教職員向け研修として行う。約1時間で終わる。可能な限りその学校に在籍する教職員全員が一度に参加するのが望ましい。
5-6人くらいがひとつのグループをつくってテーブルに座り、模造紙と大きめの「付箋」を準備する。以下、ワークショップの段階を追ってゆく。
次のような「想定」を読み上げ、先生たちに想像力のスイッチを入れてもらう。
「いまは9月2日の午前10時15分です。あなたがいつもどおり仕事をしていると、近くでだれか(児童や同僚の先生)が、『なんだか焦げくさい。変な臭いがする』とつぶやきました。あなたはなんとなくイヤな予感がして、窓から外の様子を見ようとしました。その瞬間、校舎内で非常ベルが大きな音で鳴り始めました」
読み上げたあと、先生たちに、その日のその時間帯に何をしているかをそれぞれ付箋に書いてもらう。「1年2組の教室で国語の授業をしている」「保健室で具合の悪い生徒を診ている」といったことが書かれてゆく。その日はたまたま出張に当たっているという場合もそのまま書いてもらう。
書き終わったらグループ内で共有する。付箋に書いた内容をグループの他のひとに説明して、順に模造紙に貼ってゆく。
なお、上記の文章は校内火災を想定したものだが、文章を入れ替えれば「地震」や「水害」にも応用できる。
「そのとき、あなたの周りでは何が起きているでしょうか。生徒の様子、音、臭い、モノ、電話機など、思いつくものごとをできるだけたくさん書き出してください」
前段に続いて、非常ベルが鳴った直後の様子を想像しながら書き出してもらう。
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