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デヴィッド・グレーバー『ブルシット・ジョブ』の魅力――仕事とケアの深層

渡部朝香 出版社社員

原稿を送った晩に……

 グレーバーの未来への祈りが伝わってくるような言葉を、最後に引いておきたい。

 「人間の生活とは、人間としてのわたしたちがたがいに形成し合うプロセスである。極端な個人主義者でさえ、ただ同胞たちからのケアとサポートを通してのみ、個人となる。そしてつきつめていえば、『経済』とは、まさに人間の相互形成のために必要な物質的供給を組織する方法なのである」
 (なお、グレーバーのコロナ禍に際しての発言を紹介し、『ブルシット・ジョブ』のサブテキストとしても最適な論考に、片岡大右さんによる「「魔神は瓶に戻せない」D・グレーバー、コロナ禍を語る」がある。おすすめしたい)

 上記の原稿を論座編集部に送った9月3日の晩、グレーバーの訃報に接した。

 『ブルシット・ジョブ』を読んで何より思ったのは、こういうことを書くこの人がとても好きだ、ということだった。

 グレーバーの言葉からは、頭と体と心をめいっぱいつかってこの世界を生き、これを書いている、生身の人がいるということが、たしかな手ごたえで伝わってくる。本のなかで書き手と会っているという思いを強く感じさせる。

 その日は、原稿を書き終えた高揚感のまま、『ブルシット・ジョブ』を担当した同僚に、あの一文の向こうでグレーバーが考えていることを一冊で読んでみたいとか、グレーバーさんは会ったらきっとこんな人じゃないだろうかと、書き送っていた。

デヴィッド・グレーバー拡大デヴィッド・グレーバー(1961―2020)
 いまこの惑星にデヴィッド・グレーバーという人間がいることの喜びをとりわけ強く感じていた日に、彼が逝ってしまったことを知った。

 彼が新しい言葉を投じてくれることは、なくなってしまった。

 残された本のなかで彼に出会うことは、だれにでも許されている。

 それは、彼の不在の悲しみをともなうものになってしまったが、これからも彼の言葉は読む人の何かを変え、そのことが、この世界を変えていくことにきっとつながっていく。

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筆者

渡部朝香

渡部朝香(わたなべ・ともか) 出版社社員

1973年、神奈川県生まれ。1996年に現在の勤務先の出版社に入社し、書店営業、編集、営業(内勤事務)を経て、2014年夏より単行本の編集部の所属に。担当した本は、祖父江慎ブックデザイン『心』、栗原康『村に火をつけ、白痴になれ』、石内都『フリーダ 愛と痛み』、ブレイディみかこ『ヨーロッパ・コーリング』、福嶋伸洋『リオデジャネイロに降る雪』、佐藤正明『まんが政治vs.政治まんが』、赤坂憲雄『性食考』など。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです