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コロナ禍で初めて主要な国際映画祭を開催したベネチア映画祭ディレクターに聞く

「ベネチアが女性監督作品を多く選べて幸せです」

林瑞絵 フリーライター、映画ジャーナリスト

 欧州で早くから新型コロナウイルスの爆発的な感染拡大に苦しんだイタリア。水の都ベネチアも、カーニバルやビエンナーレの建築展など世界的な名声を誇る大型イベントの中止や延期に見舞われた。

 しかし、カンヌ、ベルリンに並ぶ世界三大映画祭のひとつのベネチアは、世界の有力映画祭が次々と中止を決めるなか、開催の道を選び取った。

『スパイの妻』で銀獅子賞(監督賞)を獲得した黒沢清監督のリモート会見『スパイの妻』でコンペに出品した黒沢清監督のリモート会見=撮影・筆者
 コロナ禍で初の主要な国際映画祭として先陣を切った第77回ベネチア映画祭は、2020年9月2日から12日まで開催。金獅子賞に中国出身のクロエ・ジャオ監督『ノマドランド』、銀獅子賞(監督賞)に黒沢清監督『スパイの妻』を選んで閉幕した。日本映画で同賞の受賞は、北野武監督『座頭市』以来、17年ぶりの快挙となった。会期中の9月5日、現地で映画祭ディレクターのアルベルト・バルベラ氏に話を伺った。

インターネット上での開催は意味がない

ベネチア国際映画祭のディレクター、アルベルト・バルベラさんベネチア国際映画祭のディレクター、アルベルト・バルベラ氏=撮影・筆者
――ベネチアはコロナ禍で初の主要国際映画祭の開催となりました。開催の決定は難しかったと想像しますが。

バルベラ 確かに簡単な決定ではありませんでした。世界的な感染状況を注視しながら、ぎりぎりまで悩み続けました。結局、決定を下せたのは6月半ば。しかし、実現するからには、恥ずべき映画祭にはしないと決めていました。つまり、人々が実際に参加できる映画祭の実現を、はなから目指していたのです。

 映画祭とは人々が出会い、エモーションを分かち合い、意見や視点を交換できる場所。ですから、インターネット上での開催は意味がない。実際、そのような映画祭も存在しますが、結果は残念なものだったと思います。ネット上だけで作品を支え、有効なプロモーションをすることは難しい。監督にとっても観客にとっても、いつものベネチアのやり方で映画祭を実現することが大切だと考えました。

主要会場にアクセスするには検温が義務。体温が37.5°C以上ある入場できない主要会場にアクセスするには検温が義務。体温が37.5度以上あると入場できない=撮影・筆者
 生身の人間が参加できる映画祭実現のため、厳格な感染防止策をとりました。例えば、検温やマスクの義務化、座席の完全予約制などです。それらは簡単に導入することができました。なぜならイタリアではすでに日常からマスクをする生活ですし、人々に抵抗感はありません。

 ある程度の行動制限は受け入れながらも、映画祭で体験できる本質的な経験はしっかり守る。人々がベネチアに集うことを喜び、オプティミストでいることが大事です。安全性は確保しながら、またもとの映画祭が再開できるということを強く世界に訴えたい。それは不可能なことではないのだと。

 コロナ禍で世界的に映画産業全体が打撃を受けています。これ以上動きを止めてしまうことはできません。映画祭を再開することが、映画にとって必要なことです。

従来の習慣を取り戻すことへの欲望

――様々なコロナ対策を実施されていますが、ベネチアが特別に始めた工夫などありますか。

バルベラ 衛生対策に関して特に新しいものはないです。もともと政府や地域が求めていることに沿ったまでで、映画祭が特別に提案することはありませんでした。来場者のチェックポイントを設け、検温などのコントロールを実施しましたが、いったんエリア内に入場すれば、映画上映、記者会見、フォトコールなど、ほぼいつもの映画祭の儀式が体験できるのです。もちろんマスクを装着し、ソーシャル・ディスタンスを確保しなければなりませんが。

 ただし、(監督や俳優が歩く)「レッドカーペット」は実施しますが、

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