権力を「柔らかいイメージで中和したい」という欲求
2020年09月17日
前回の記事「菅新総裁の人気が急騰したのは、安倍政権が「王政」だったから」では、支持率が下落しても4度も再逆転するような「蘇生力」を安倍政権が持っていたことについて分析しました。
結論としては、政権が長期化したという要因により、長時間労働賛美と同様、「長く勤めてエライ! 頑張っている!」と、時間が長いこと自体を高評価してしまう人々が現れたことや、王政に対するまなざしのようなものが生まれて、批判や非難を免除される傾向が強まったという仮説を打ち立てました。今回はその要因の二つ目として、「かわいさ」についても触れたいと思います。
9月6日付朝日新聞の朝刊で、文筆家の鈴木涼美氏が、「安倍さんが長く支持されるに至った強みは『かわいさ』にあった」「どこか憎めない感じ」と主張していました。私自身、かわいいという感じ方には微塵も共感しないのですが、鈴木氏の説自体は的を射ているように思います。
モデルでタレントの木村有希(ゆきぽよ)さんが、雑誌『WiLL』で、「安倍首相? かわいくていいよ」と寄稿したこともありましたが、実際に安倍前首相を「かわいい」と感じていた人は少なくないようです。菅新首相も、官房長官時代にメディアがこぞって「令和おじさん」「パンケーキおじさん」と積極的に宣伝しており、「かわいい」と感じている人は増加傾向にあるのでしょう。
でも、当然ながら、実態は「かわいい」というイメージからはかけ離れています。安倍前首相は「安倍一強」と言われるほど、政権与党内で絶大な権力を持った存在でしたし、人間性としても、国会で下品なヤジを飛ばすことがしばしばありました。
菅新首相に関しては、「抵抗したら干される恐怖」を感じていたと元官僚が証言する等、報道されるその仕事ぶりは、かわいさとは対極にある人物にしか思えません。「自助」を前面に訴えるなど、思想は新自由主義的で、弱者には厳しいと言われているようです。
それなのになぜ、彼らをかわいく感じてしまう国民が一定数いるのでしょうか? いくつか考えられる要因を列挙してみます。
・安倍政権の親近感を出すPR作戦が成功した
・「お坊ちゃま」の安倍氏も、泥臭い叩き上げというイメージ作りをした菅氏も、知性や能力の高さを誇る“エリート臭”が強くない
・長期政権を実現したことで、単純接触効果(繰り返し接すると印象が良くなるという効果)があらわれている
これらに加えて、7年8カ月の長期政権を実現した人物と、それを中心で支えた人物の政治権力はあまりに絶大であり、「かわいさ」とはかけ離れているからこそ、逆に彼らの中から「かわいさ」を見いだそうとしたのも、非常に大きな要因だろうと思います。つまり、ある種の「正常性バイアス」です。
たとえば、メディアが女性スーパーアスリートを特集する時に、「素朴な普通の女の子の素顔がそこにはあった!」といった演出が少なくありません。「女性の強い姿をあまり見たくない」「運動は自分より上でも、どこかに“下”の部分があって欲しい」という女性蔑視的な視点がある人たちが、「普通」に思える部分や“下”の部分を切り取り、過剰にクローズアップしているためと考えられます。
と記事を書いていたところ、まさにこの類の「かわいさ演出」により、日清の広告がネット上で炎上しました。全米オープンが始まる前の広告ですが、
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください