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ダムに沈んだ村に最後まで住んでいた一人の女性の物語

異質な価値観と出会ったときの心構え

堀 由紀子 編集者・KADOKAWA

ネット情報を極力避ける「歩く民俗学者」

 少しずつ村人たちは移転し、最後には司さんとゆきえさんの夫婦だけになってしまった。そして2004年夏、司さんが亡くなった。本当に一人になってしまったゆきえさんは翌年5月、門入から出ていくことを決めた。移転先は、本巣市の集団移転地に建てた家だ。その後も大西さんはゆきえさんのもとに足を運んだ。それは、冒頭で記した「なぜ最後の一人になるまで残ったのか」という謎を解くためだ。

 そして、ゆきえさんの幼少期からの生い立ちが語られていく。それを受けて、大西さんはゆきえさんがたどったであろう場所を訪ね歩く。小学校を出て勤めたホハレ峠を越えた先の養蚕工場の地や、集団開拓の一員として嫁いだ先の北海道ニセコ、係累を追って札幌。

大西暢夫さん201911山形県東根市拡大大西暢夫さん=2019年11月、山形県東根市の個展で

 ニセコでは、ゆきえさんがかつて住んでいたと語った住所を尋ねる。〇〇村まではたどり着けても、番地をどう探し当てるのか。おどろくことに、こんなとき大西さんは「ネット情報を極力避ける」。なぜなら、「周囲の人に聞きながら探してゆくことで、その地域の雰囲気が大筋見えてくるからだ」。手当たり次第にインターホンを押したり、その土地の人に話しかけてみる。これぞ歩く民俗学者だ。そうしておどろくことに、大西さんは引き当てるのだ。訪ねた先の女性が言う。

 「お父さん! 徳山村からお客さんだよ!」

 「なに? 徳山村だと! おいおい本当か」

 「よく来た! 本当によく来てくれた。ここで正解だ」

 こうなってくると、探偵小説を読んでいるようで本の中に引き込まれていく。目当ての人に会った場面では、思わず鳥肌が立った。

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筆者

堀 由紀子

堀 由紀子(ほり・ゆきこ) 編集者・KADOKAWA

1975年、山梨県生まれ。1999年より角川書店で、主婦向けのテレビ誌「しってる?」、スポーツ誌「SPORT Yeah!」、都市情報誌「横浜ウォーカー」の編集に携わる。2012年より書籍編集に。担当した書籍は、柳田国男復刊シリーズ(角川ソフィア文庫)、黒田勝弘『隣国への足跡』、望月衣塑子『武器輸出と日本企業』、室井尚『文系学部解体』、柴田一成『とんでもなくおもしろい宇宙』など。ハードボイルド小説と自然科学系の本が好き。