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愛されるより恐れられよ…『君主論』(マキャベリ)は政治家のバイブルか

菅首相が引用したことが話題に。目的のためならどんな手段も肯定される政治観の真実

三浦俊章 朝日新聞編集委員

マキャベリを引用した菅首相

 だから、菅首相が官房長官時代、それもつい最近まで雑誌に連載していたコラムで、マキャベリを引用したのは驚きだった。自分の政治手法を重ねて、次のように語っている。

 「官僚たちに『強く指示』することがよくあるために、霞が関からはずいぶん恐れられているようですが、それも仕方がないと思っています。(中略)マキャベリも、『君主論』の中でリーダーのあるべき姿についてこう述べています。〈恐れられるよりも愛されるほうがよいか、それとも逆か。……二つのうちの一つを手放さねばならないときには、愛されるよりも恐れられていたほうがはるかに安全である〉(「菅義偉の戦略的人生相談」、ビジネス誌「プレジデント」2020年6月12日号)

 古今の名言を政治家が引用するのはよくあることだが、マキャベリは極めて珍しい。菅首相がその珍しいマキャベリを引いたのは、昨今の日本の政治状況と関係があるのだろう。小泉政権以後に長く続いた政治の混乱の結果、とかく「決める政治」がもてはやされ、強いリーダーが求められるようになった。そうした現代の風潮ならではの現象のように思われる。

 だが、マキャベリが説いたのは、単にそのような決断主義だったのだろうか。

拡大Contimis Works/shutterstock.com

特殊な目的のために書かれた『君主論』

 『君主論』は、政治学の古典としては短い方である。ゆったりと活字を組んだ中公文庫(池田廉訳)でも本文は150ページたらず。しかし、正直に言って、決して読みやすい本ではない。

拡大ニコロ・マキャベリの像(イタリア・フィレンツェのウフィツィ美術館)の外で)  James.Pintar/shutterstock.com
 ひとつには、マキャベリの議論の前提となっている500年前のイタリアの状況がつかみにくいことだ。ミラノ公国、ベネチア共和国、フィレンツェ共和国、ローマ教皇領、ナポリ王国などが並立しているうえ、フランスや神聖ローマ帝国など周辺の大国が介入を繰り返す。その複雑な関係を頭に入れるだけでも大変な作業だ。

 もうひとつの理由は、あとで詳しく触れるが、『君主論』が極めて特殊な目的のために書かれた本であることだ。

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筆者

三浦俊章

三浦俊章(みうら・としあき) 朝日新聞編集委員

朝日新聞ワシントン特派員、テレビ朝日系列「報道ステーション」コメンテーター、日曜版GLOBE編集長などを経て、2014年から現職。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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