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『ペリリュー 楽園のゲルニカ』――戦争体験が失われる時代のリアリティー

大槻慎二 編集者、田畑書店社主

兵士の立ち位置から見た戦場の現実

 そこで、ファクトの力に圧倒される吉田裕さんの『日本軍兵士――アジア・太平洋戦争の現実』の話に戻る。この本はあくまで「兵士の目線」で「兵士の立ち位置」から戦場をとらえ直してみることを本義としている。それが右からも左からも読まれ、つまりは本書をベストセラーにしている要因でもあるが、掘り起こされ提示された現実には本当に目を瞠(みは)る。

 ほとんど物も食べずに痩せ細ったボロボロの身体で、自分の体重に等しい重量の装備を身に付けて行軍する恐怖。口腔は虫歯だらけ、末期には牛革もなく浸水を許す鮫皮の軍靴を履き、靴の中は戦後何年経っても治らないほどの酷い水虫に冒されている。

 その実態を知ればサバゲーのコスプレも変わるだろうし、そもそもそんな日本兵に扮する気にもならないだろう。

厚生省派遣遺骨収集団によって旧日本軍司令部跡に安置された兵士の遺骨=1967年5月、ペリリュー島拡大厚生省派遣遺骨収集団によって旧日本軍司令部跡に安置された兵士の遺骨=1967年5月、ペリリュー島

 また、暗号の解読とレーダーによって到達前に撃ち落とされなかった幸運な特攻機も、激突する瞬間に機自体に浮力が働き、爆弾を投下したときの何分の1かしか破壊力がないので、体当たりしても撃沈には到底いたらないというこの作戦の根本的な欠陥を、当の特攻隊員が熟知していたという事実。

 爆弾を投下して激突間際に反転するパイロットを阻むため、爆弾を落とせないように機体に固着させたという軍の恐るべき冷酷さ。突撃前に発狂する隊員が絶えなかったことも頷ける。

1945年、鹿児島県の知覧基地から沖縄に出撃する特攻隊のパイロットたち拡大1945年、鹿児島県の知覧基地から沖縄に出撃する特攻隊のパイロットたち

 それを知ったらおそらく、自己啓発の意味が瓦解し、「活入れ」どころか気が抜けて仕方ないだろう。いや、フツフツと湧いてくる軍首脳部に対する怒りが、逆に「活」を入れることになるのかもしれないが……。

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筆者

大槻慎二

大槻慎二(おおつき・しんじ) 編集者、田畑書店社主

1961年、長野県生まれ。名古屋大学文学部仏文科卒。福武書店(現ベネッセコーポレーション)で文芸雑誌「海燕」や文芸書の編集に携わった後、朝日新聞社に入社。出版局(のち朝日新聞出版)にて、「一冊の本」、「小説トリッパー」、朝日文庫の編集長を務める。2011年に退社し、現在、田畑書店社主。大阪芸術大学、奈良大学で、出版・編集と創作の講座を持つ。フリーで書籍の企画・編集も手がける。