大原薫(おおはら・かおる) 演劇ライター
演劇ライターとして雑誌やWEB、公演パンフレットなどで執筆する。心を震わせる作品との出会いを多くの方と共有できることが、何よりの喜び。ブロードウェー・ミュージカルに惹かれて毎年ニューヨークを訪れ、現地の熱気を日本に伝えている。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
登場人物10数人、20曲以上の歌と語りで夭折した画家の生涯を描く『ロートレック』
山本芳樹主演・演出。稽古場にいるのは山本芳樹ただ一人だ。
「本当に一人なんです」と笑う山本。「リハーサルも一人で、初めてのことなのですべてが新鮮。とにかく孤独ですね(笑)」取材陣と普通に会話を交わし、音響機器を操作するのも山本本人。だが、音楽が鳴り始めた途端に稽古場の空気は一変する。物語の世界が立ち上がり、山本がロートレックになる。魔法のようにドラマが生まれる様を目にした。
冒頭は、ロートレックの晩年。精神病院に入れられたロートレックが「俺をここから出してくれ。俺は気が触れてなんかいない」と医師に訴え、「自分の肖像画を描きたい」と懇願する。ドラマティックな歌唱で、早くも物語に引き込まれた。
やがて、語り手となった山本が「アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック。それがこの男の名前です」と語り始める。19世紀末のパリ、激動の時代に生きたロートレックの波乱に満ちた生涯を語り手が紹介する。「もしかしたら僕(山本)自身かもしれない」という語り手の存在が、ストーリーにさらに奥行を与えた。
次々とシームレスに異なる登場人物を演じる
物語はロートレックの幼少期にさかのぼる。「由緒ある家柄の血を絶やしてはならない」と歌うロートレックの父親。嫡男アンリを溺愛するが、やがて障害を知って、息子を拒絶する。
衣裳を変えずとも佇まいや声音、立ち居振る舞いで謹厳な父親を体現する山本の豊かな演技力に目を見張った。
息子アンリのために「主よ、もし代われるなら、彼の苦しみをどうか私に」と祈る母親。母親の愛情が切なく伝わる。
ことさらに「違う役を演じる」と際立たせるのでなく、非常に自然な形で語り手から父親へ、母親へ、そしてロートレックへと切り替わる。シームレスに移り変わりながらも、一人一人のキャラクターの心情に繊細に入り込んだ演技が印象的だ。男優だけの劇団スタジオライフで、少年役や女性役などあらゆる役柄を演じてきた山本の経験が生きているのだろう。
「自分の中で違和感は全然ないですね。スタジオライフで日常からかけ離れた作品を演じているので、日常から離れたものを演じることに抵抗はないんです」と山本は語る。
前回上演のときは「落語のように演じる」というテーマがあったとのこと。前回は小道具なしで演じたが、今回は様々な小道具も登場する。どこから小道具を出してどう移動させるか、そんな計算をするのも山本自身だ。稽古場で試行錯誤しながら、動きを決めていく。
◆公演情報◆
山本芳樹ソロミュージカル『ロートレック』
2020年10月14日(水)~10月18日(日) ウエストエンドスタジオ
※全公演配信します。配信チケットはこちらから
企画・原案:沢木順
脚本・作詞:さらだたまこ
作曲:玉麻尚一
演出:山本芳樹
出演:山本芳樹
演奏:後藤浩明(Piano)
藤田 奏(Bass)
前川維旺利(Drums)
〈山本芳樹プロフィル〉
劇団スタジオライフ所属。作品へ誘う圧倒的な存在感と繊細な演技力に定評がある。劇団の代表作『トーマの心臓』や『PHANTOM』で主演を務めるほか、外部作品へも出演している。作詞・作曲も手がけ、定期的にソロライブも開催している。
★公式twitter
論座ではこんな記事も人気です。もう読みましたか?