2020年10月09日
松田聖子のヒット曲「青い珊瑚礁」のさわり「あー、私の恋は……」が流れてくると、なぜか私の頭の中では自転車に乗って入学したばかりの大学に向かうシーンがフラッシュバックする。彼女がデビューした当時、かわいらしく媚びを売っているように見えるその素振りは「ぶりっこ」と言われ、私が最も苦手とするタイプの女子だった。けれども、そんな「アンチ」をよそに多くの女友だちは「聖子ちゃんカット」というふわふわしたかわいいカールのかかった髪型にしていたし、実際そういう子が男子に人気があったように思う。
嫌いなはずなのに、なぜか「カセットテープ」でヒットソングを聞いていたし、嫌いなはずなのに特に1980年~1990年代の彼女の曲は全部口ずさむほど歌えるのだ。そんなあるとき、4つ下の妹が「彼女の歌声って、聞く人をなんだか幸せな気持ちにしてくれるんだよね」と言った。なあるほど、と思った。つい聞いてしまうのは、やはり彼女の「歌」と「歌声」のせいなのだ。
その後、聖子ちゃんは郷ひろみとの破局、神田正輝との電撃結婚はもとより、外国人との恋愛ツーショット写真が女性週刊誌に出たりと「恋多き女」として、何かと話題を振りまき、なんだか多くのスキャンダルで叩かれまくっていたイメージだった。「聖子ちゃん、こんなに叩かれて大丈夫なのかな?」という心配をよそに彼女は全く動じなかった。ドラマにも出ていたけれど、当時はドラマの主題歌になるとヒットするというのが今以上に定番だった頃で、正直役者としてはそれほど上手ではない(と私には見えた)彼女が一生懸命演技するのを見て「そうか、歌いたいために演技してるんだろうな」と自分なりの勝手な解釈をしたものだった。
「歌が好き、とにかく歌いたい」、それが芯にしっかりある人なんだということが徐々に「アンチ」の私にも伝わってきた。スキャンダルにも負けず、自分の「歌」という信念で貫かれたその姿に、「叶わない」という思いが沸き始め、「聖子ちゃんはすごい、ただの女の子じゃないんだ」とやっと気づいた。
2020年春以降、コロナ禍の影響を受けて、エンタテイメントというエンタテイメントが根こそぎ奪われた生活の中で、夜、YouTubeを少し見てから寝るというサイクルになってしまった。そのときに、なぜかつい「聖子ちゃん」の歌を選んで聞き入った。「あー、この声がキャンディボイスという高音まで透き通って出せる声のことなんだな」と「アンチ時代」には全く気付かなかった彼女の声の抜け感が頭に響いた。
そして、あの曲もこの曲もと、アンチだった私でも知っている彼女の歌を聴いていると、
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