ジャニーズ事務所にできなくて、退所したらできること
2020年10月13日
映画『ミッドナイトスワン』を、都心にあるTOHOシネマズで見た。時々のぞくSNSの世界で大絶賛されていた。主演の草彅剛さんが、トランスジェンダーの役を演じているという。平日、正午過ぎからの上映だったが、一つ空きの座席はかなり埋まっていた。
すごく良い調子で展開していった。新宿のショーパブで働く凪沙(草彅剛)が、母親から虐待されてきた中学生の一果(服部樹咲)を預かる。初対面で凪沙は言う。「好きであんた、預かるわけじゃないんだから。言っとくけど、私、子ども嫌いなの」。
草彅さんの演技から、凪沙は己を律して生きてきた優しい人なのだとわかる。トレンチコートにピンヒール、大きなサングラスで新宿の裏通りを闊歩する凪沙が、初めて一果を抱きしめるシーンが秀逸だった。
リストカットするかのように、自分の腕を噛む一果。その傷跡を見つけ、抱きしめる。そして、こう言う。「うちらみたいなんは、ずっと一人で生きていかんといけんのじゃ。強うならんと、いかんで」。
世の中の真ん中にいない者同士。そこに一果のバレエ友だちであるお金持ちの娘・りん(上野鈴華)が加わり、人は孤独なのだという当たり前のことが心に染みる。
後半からは凪沙の「母性」が前面に出てくる。評論家の芝山幹郎さんはパンフレットの中で「母性に対する急激な接近はやや強引な気もするが、これは自分のためというより、一果を思う気持ちがつんのめってしまったためだろう」と書いていた。母性ゆえの凪沙の決断、決断の末の結末が描かれる。正直に書くなら、どちらにも違和感が残った。
が、この話はこれ以上、深入りしない。草彅さんの熱演は間違いなく、違和感も含め、いろいろな気持ちを呼び起こす映画だった。何より、今回の主題は別にあるのだ。
というわけで、ここからが本題だ。
エンドロールを眺めていて、衝撃が走った。「エグゼクティブプロデューサー 飯島三智」。そうあった。あの飯島さんが、エグゼクティブプロデューサーだと表明している。そのことが衝撃だった。
飯島さんは言わずと知れたSMAPの育ての親だ。歌にドラマにバラエティーにというジャニーズ事務所のビジネスモデルを作った人でもある。が、ジャニーズ時代から全く表に出ない人だった。創業家とのあれこれがありジャニーズ事務所を退所してからも、「CULEN」(カレン)という会社を起こしたと伝えられるだけだった。
今「CULEN」のホームページを見ると、「これから、稲垣吾郎さん、草彅剛さん、香取慎吾さんとクリエイティブな活動をご一緒させていただきます。ご支援よろしくお願いします」とトップページにある以外、コンテンツは何もない。3人でつくる「新しい地図」のホームページにも飯島さんの名前はなく、ごく小さく「CULEN inc.」のリンクが貼られているだけだ。
という人が、エグゼクティブプロデューサーと名乗ったのだ。何か心境の変化があったのだろうか。あれこれ考え
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください