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舞台『女の一生』、大竹しのぶ、高橋克実、段田安則、風間杜夫 合同取材レポート

心にキュンとくるセリフの数々を劇場で味わってほしい

さかせがわ猫丸 フリーライター


 昭和20(1945)年の初演以来、日本演劇史にその名を轟かせる名作『女の一生』が、11月2日より新橋演舞場で上演されます。この作品は、戦災孤児の布引けいが、堤家の長男・伸太郎の妻となって家業を守る生涯を描いています。名優杉村春子さんが947回に渡って演じた主人公・けいに挑むのは、舞台女優として円熟味を増す大竹しのぶさん。伸太郎役の段田安則さんが、同時に演出をつとめることにも注目が集まりました。大竹さん、段田さんを始め、堤家を見守る叔父・章介役の風間杜夫さん、堤家の次男で、けいと淡い恋心を抱く栄二役の高橋克実さんら、豪華キャストが顔を合わせた取材会の模様をお届けします。

コロナ禍の今だから当時が浮かび上がる

拡大『女の一生』制作発表会見から

記者:新型コロナの影響で世界的にも厳しい状況が続いています。そんな今だからこそ、この舞台で伝えたいことはありますか。

段田:私はこれまで、のほほんと生きてまいりましたが、初めて経験する世界的なコロナ禍での上演です。しかし、過去には戦争で生きるか死ぬかの時代もありました。そんな大変な時を生き抜いた布引けいの一生が、今また蘇ります。皆がコロナ禍を経験している今だからこそ、激動の時代がより鮮明に浮かび上がるのではないかと思っています。

大竹:想像もしないことが人生には起こるもので、戦争もそうでした。そんな中でも、人々は生きていかなきゃいけなかったわけです。今度のコロナ禍は戦争ではないですが、同じようにいろんな思いを抱えながら、みんな前を向いて生きています。この作品には、いいセリフがいっぱい散りばめられています。誰にでも当てはまるような、心にキュンとくるセリフの数々を、ぜひ生の声で劇場で味わってほしいなと思います。

高橋:情報番組をやっていましたが、1月の終わりからずっとコロナの話題で、まさかここまで大きな影響を受けるとは、その頃は誰も思っていませんでした。栄二のセリフで「ひどい目にあったけど、これからの新しい世の中を見てみたい」という意味合いのものがあります。マイナス面ばかり考えていても仕方がないし、少しずつでも前に行くしかないことを改めて感じました。見に来てくださったお客様と一緒に、自分なりの新しい希望を持てたらと思います。

風間:この作品には2009年と2011年の新派公演に出演していますが、2011年は東日本大震災の後でした。まるで空襲のあとの瓦礫のような光景が目の前に広がり、日本全国の人が心を塞がれていた時期です。その時のお客様の目を見て僕自身が感じたのは、芝居には力があるということでした。明日に向かって生きる気持ちが、劇場全体で沸き起こったんです。そして今また、コロナ禍という地球全体を覆う災害の中、上演されることとなりました。小さなお芝居かもしれませんが、ご覧になったお客様の記憶に一生残る名舞台になると私は確信しています。

ハイテンションな19歳を演じる!?

拡大大竹しのぶ(左)、高橋克実

記者:それぞれの演じられる役について、大切にしたいところをお聞きかせください。

段田:私の役は、栄二と仲が良かったけいさんと夫婦になります。しかし商売の甲斐性がないものですから、けいさんが強い女になって切り盛りしてくれるんです。甲斐性があればまた、けいさんの人生も変わっていたでしょうね。やがて別居しますが、また会いに来くる場面がとてもいいシーンになっています。

大竹:なかなか巡り会えないいい本だと、日々実感しています。一言ひとことが、じんわりとお客さんの心に染み渡ればいいなと思います。杉村春子さんが40年以上かけて掘り下げられた凄い戯曲ですので、私も1日1日お稽古を大事にして演じたいと思います。今はそれしか言えないです。

高橋:栄二は19歳から59歳までを演じます。本読みの時に、段田さんたちが検証して作られた、登場人物の年表をいただきました。私も昭和36年上演の文学座のDVDを見て、北村和夫さんが演じたハイテンションな19歳にもチャレンジしています。これだけの達者な方達に囲まれておりますので、とにかく当たっていくしか手立てがないと。そして、けい役の大竹しのぶさんになるべく嫌われないように頑張りたいと思います。最後まで「栄二のキャスティングには納得できない」とおっしゃってたんで(笑)

大竹:そういうことを言うと、また本当のように書かれちゃう。

(一同笑)

風間:章介おじさんはまったく可愛くてしょうがないんですよ、栄二も伸太郎も総子もふみも。そんな中、16歳で拾われたけいが、サナギが蝶になるようにどんどん女になり、事業主としての才覚を表していく。そんなけいに対して1人の女として魅力を感じながらも、最後まで言い出せない。みんなを応援しながら、堤家をこよなく愛する“いいおじさん”なんです。魅力的に演じたいですね。

演出家・段田安則の手腕も光る

拡大段田安則(左)、風間杜夫

記者:段田さんの演出家としての目で、それぞれの役のポイントをお聞かせください。

段田:この作品は女の一代記ですが、“若い頃からみんなにいじめられながらも頑張って成功しました”だけのお話ではありません。女性の影の部分と陽の部分が丁寧に描かれているので、見る人はよりけいに惹かれていくんです。大竹さんは素晴らしい感性を持っていますから、いろいろな面を見せてくださると思います。

 栄二さんについては、そうですね…今のところ何も考えてないんですが(笑)、最初はお金持ちの次男なんですが、のちに中国大陸に渡り、戻ってきてどうなったのかが見えてくれば魅力的だなと思います。

 章介さんについては、みんながこのおじさんのことが好きなんですよ。狂言まわしではないですが、結局このおじさんのお話の中で進んでいくんです。時々いいことも言うので、私も 80歳ぐらいになったらぜひやってみたいなと思う魅力的な役ですね。

記者:段田さんの演出家としての印象は?

大竹:段田さんとは何度も共演していて、二人ともダラダラのんびりしていますが、いざ始まると「あんたもしつこいね」って言うくらい、芝居について話し合っているんですよ。いいものに対しての執着がすごいので、今回もその空気を感じています。演出家にありがちな“先生”風が全然なくて、お互いに意見を言い合えるのがすごく楽しいですね。

高橋:演出家には「怖い」とか「怒られる」みたいなイメージがありますが、段田さんは伝え方も役者目線でわかりやすいんです。ただそれを聞いて私が出来るかどうかは別問題ですが(笑)、登場人物の心境一つとっても、いろんな角度から見ることを教えてくださいますので、“気付き”が多いですね。怒鳴られたまま千穐楽みたいなことはなさそうです。

風間:段田さんの演出は初めてです。僕はいろんな舞台で、彼の数々の名演技を見てきました。今回、本読みで若い俳優に「いろんなチャレンジをしなさい。演出家に言われてやるのではなく、自分で思いついてやったほうが喜びも大きいぞ」と言っているのを聞いて、ああ、こうやって役と立ち向かってきたのかと、俳優・段田安則の成り立ちを知りました。本当に彼は突拍子もない芝居をやっていましたから(笑)。しかし、これがハマっていたんですよね。もちろん演出家としても信頼しています。

共に前向きになれる舞台を目指す

拡大

記者:生の舞台を見たお客さまにどういう気持ちになってもらいたいですか。

段田:今は辛い状況ですが、芝居を見て元気を出していただきたい。生きてりゃなんとかなる。次の手立てが見つかって、希望も見えるんじゃないかとか……そんな簡単ではないけど、また頑張ろうと思っていただけたらうれしいですね。

大竹:世界中を震撼させる疫病はシェイクスピアの時代にもあって、マクベスの「明けない夜はない」というセリフが生まれたと読んだことがあります。けいも「自分はもう何も無い状態だけれども、それでも私の人生はこれからという気がするわ」とあくまでも前向きです。不安を抱えるお客様に「やっぱり来てよかった」と思っていただける芝居を、今だからこそやらなきゃいけないと思います。劇場の灯を消さないためにも。

高橋:脚本の言葉が、随所で自分に刺さるんです。どこにでもある日常が描かれて、共感する箇所がたくさんあります。だからこの作品を見て「自分もここ当てはまるわ。私も結構頑張ってきなあ」と思っていただけたらいいなと思います。たださきほどからの繰り返しになりますが、私が表現できるかどうかは別ですが。

大竹:やっぱりそこか…(笑)

風間:以前こまつ座で、太宰治の役をやりました。幕が下りた瞬間に「俺、ちょっと立派な人になったかな。ちょっと人間としてステージ上がったな」そう思える実感があったんです。『女の一生』も、演じるたびに人間としてステージに上がってるといいなと思います。前回の公演から9年経ちますが、本読みで泣いちゃったんですよ。もう最後は泣けて泣けて。お客さんにも泣いてもらいたいですね。私も前向きに生きてみよう、新しい日常が始まるんだと、錯覚でもいいからそう思って欲しいです。

大竹:ほんとですね。

風間:原作の森本薫さんのすごいところは、日常生活でのいろんなスケッチが、1つ1つ絵で浮かんでくるんです。年老いた2人が空襲の後の焼けただれたところで再会する……いい芝居ですよ。絶対当たります。

段田:森本さんは30過ぎで亡くなっています。この夫婦の空気感を、その若さで書いてるっていうのがもうびっくりですよね。そんなところもぜひご覧いただきたいと思います。

記者:最後に、大竹さん演じるけいへの思いをお願いします。

段田:文学座の大看板で、杉村春子さんが千回近くやってらっしゃる名作を、一体、今なら誰ができるんだろうとなると、大竹しのぶさんしか頭に浮かびませんでした。私がきちんと演出できるのか不安でもありますが、大竹しのぶさんが見せる新しいけいを楽しみにしていてください。

◆公演情報◆
拡大『女の一生』
舞台『女の一生』
2020年11月2日(月)~11月26日(木) 新橋演舞場
公式ホームページ
[スタッフ]
作:森本 薫
補綴:戌井市郎
演出:段田安則
[キャスト]
大竹しのぶ
高橋克実、段田安則、宮澤エマ、多岐川華子、服部容子、森本健介、林翔太、銀粉蝶、風間杜夫

筆者

さかせがわ猫丸

さかせがわ猫丸(さかせがわ・ねこまる) フリーライター

大阪府出身、兵庫県在住。全国紙の広告局に勤めた後、出産を機に退社。フリーランスとなり、ラジオ番組台本や、芸能・教育関係の新聞広告記事を担当。2009年4月からアサヒ・コム(朝日新聞デジタル)に「猫丸」名で宝塚歌劇の記事を執筆。ペンネームは、猫をこよなく愛することから。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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